夜泣き

 小学校に上がり、娘は自分の部屋で一人で寝るようになった。

 その娘が、突然夜泣きするようになった。夜更けに前触れもなく、火がついたように泣く。

 一人で寝るのが怖いのかと問うと、そうではないと首を振る。なら何故泣くのだと重ねて訊けば黙り込んでしまう。

 可愛い一人娘の事である。それに私とて毎晩深夜に起こされたのでは堪らない。どうにかせねばと思案していると、


「今日は一緒に寝ましょうね」


 妻が言ってその場を治めた。

 その夜は親子三人、川の字になって眠った。

 やはり安心感があったのか、娘はすやすやと寝息を立てて、その夜は一度も泣かなかった。


 

 翌朝、妻がぬいぐるみを抱えて娘の部屋から出てくるのを見た。

 薄汚れ、くたびれ果てたそれは、娘が小さい時分にいつも抱いて寝ていたものだった。ただし手足は引きちぎれ、腹からは綿が飛び出し、それは酷い有様になっている。


「代わりになってもらったから」


 私の視線に気づくと妻は囁き、そのぬいぐるみを紙袋に収めた。


 その夜から娘は自室に戻った。

 夜泣きはぴたりとんでいる。

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