沼からの声

 その町から、山へしばらく踏み入ると窪地がある。

 元々湿度の高い土地だから、そこには霧が絶えない。水はけも悪く、雨が続けば沼になる。

 町には迷信がある。

 沼が出来た夜、月の明るい頃を選んでそこへ行くと、死んだ者の声が聞けるのだという。


 宿をとって下見を済ませて、雨の日を待った。そして小雨の上がった夜、件の窪地へと足を運んだ。

 するとどこからか、母を慕って赤子の泣く声がした。

 産んであげられなかった、あの子の声だろうと思った。

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