立ち尽くす

 少し前、埠頭ふとう倉庫に奇妙なものが現れた。

 最初にそれを見たのは釣り人だった。だが頻繁に見られるから噂にもなって、物見高い幾人もが目撃した。俺も見物に足を運んだひとりだ。


 それは朝から晩まで、ひょっとしたら深夜に至っても一日中、同じ場所でただ立ち尽くしている。

 人の形こそしているが、どこかが確実に異質だった。

 ただ虚ろな目で遠く、海の向こうを見つめている。そしていつも頭のてっぺんからつま先までずぶ濡れで、ぽたぽたと地面に雫を滴らせていた。


 そしてそれは現れ始めと同様に、ある日突然見なくなった。

 行方は誰も知らない。

 決して愉快な存在ではなかったのに、何故かふと懐かしく、その姿が思い出される時がある。

 たまにそれが立ち尽くしていた場所で海を眺める者を見るから、きっとこれは、俺だけの感慨ではないのだろう。

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