ささやかな凱歌

 友人を見舞いに行った。彼女の病室は2階だったから、節電に協力しようと思い立って階段を使った。

 すると薄暗いその階段に、おかしなものがいた。

 身の丈十数センチの小坊主である。

 ちまっこい体を一杯に使って、2階への踊り場を目指し階段をよじ登っている。私は期せずその背中側に位置取る格好になっていて、坊主がこちらに気づいた様子はない。

 このまま何も見なかった事にして立ち去ろう。そう思いもしたのだが、


「やっ! はっ!」


 とかけ声をかけながら一段ずつ階段を制覇していく小坊主に、ついつい見入ってしまった。

 多分に滑稽こっけいな有様ではあるのだが、その背中には峻嶺しゅんれいに挑む登山家めいた真摯しんしなこだわりが漂っている。

 結局そのまま見守るうちに、とうとう小坊主は踊り場にたどり着いた。

 心底嬉しげに両腕を上げて万歳をし、どうだと言わんばかりにちょこんと跳ねた。その愛嬌溢れる仕草に、不覚にも私は声を立てて笑ってしまった。

 はっと気づいた小坊主はこちらを振り向き、薄暗がりなのでよくは見えなかったが、多分真っ赤になったのだろう。


「今に見ておれ! 今に見ておれ!」


 地団駄踏みながら切歯扼腕せっしやくわんするうちに、やがてすうっと姿が薄れて消えてしまった。

 そんな移動方法があるのなら、何もこんな階段に悪戦苦闘する事もあるいまいに。

 どうもあの手のモノの考える事はよく分からない。

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