一喝
私が通っている高校には、悪い噂がありました。
この学校は旧日本軍の実験施設跡地に建てられていて、夜になると日本兵の亡霊が
よくあると言うなら、よくある噂でもあります。
頭から信じていたわけではありません。でも友人にこそ隠していますが私は結構怖がりで、だから部活で遅くなった時は出来るだけ足早に帰るようにしていました。
だから多分、その日は運が悪かったのでしょう。
先生に手伝いを頼まれてしまって、終わらせてから教室に戻ると、薄情にも皆いませんでした。冬の日は駆け足で、もう夕暮れを過ぎて夜闇が忍んでこようとしています。
いやだな、と思いながら鞄を手に取った瞬間、ぞわっと産毛が逆立つのが分かりました。
天井の方です。
天井に貼り付いた何かが、じっと私を見つめているのです。
逃げ出そうにも身動きひとつ、指先ひとつ動きません。出来るのはただ呼吸と瞬きばかりでした。その分感覚は鋭敏になって、悪意ある粘っこい視線と、獣のような荒い呼吸が強く感じ取れました。
そしてそれはじわじわと、私の頭上へ這い寄ってきて、
「こら!!」
廊下から、強く鋭い声が一度だけしました。同時に頭上の嫌なものの気配は逃げるように消え失せました。
救いの声の主を求めて振り向くと、閉じた教室のドアの、そのガラス部分に人影が映っています。
影は私の視線に気がついたように、さっと敬礼の格好をしました。
それから立ち去る足音すらなく、ふっと煙のように消え失せてしまいました。
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