駆けてくる

 小さな頃、近所の神社周りの道が怖かった。

 学校の帰り、友達の家からの帰り、頼まれたお使いの帰り。夕暮れを過ぎてそこを通りがかれば必ず、ぱたぱたと足音がついてきたからだ。


 断じて言うが、自分の足音の反響に怯えたわけでも、気のせいでもない。

 証拠に駆けてから不意に止まれば、私が立てるよりも多く駆け足の音がした。私自身は歩いているのに、ぱたたたた、と走り寄ってくる音が聞こえた事もある。

 足音は必ず、神社から離れて明るい大通りに出れば消えた。

 祖母は「神様が見守ってくれているんだよ」と笑っていたが、子供心にはどうしても怖くて、できるだけその道は避けて通った。


 中学へ上がると、私には足音が聞こえなくなった。

 けれど今でもたまに、大通りまで駆けてくる子供を見る事がある。

 一様に浮かべる安堵からするに、あれはまだ、神社周りにいるのだろう。

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