応報

 級友から悪事を持ちかけられた。

 地元には小さな神社がある。小さいながらも秋口には祭りがあって縁日が立つ。その祭りの日、夜更けに忍び込んで、賽銭さいせんさらおうというのだ。

 無論断った。


「なんだよ、怖ぇのかよ」


 鼻白んで言われたが、俺はがえんじなかった。

 別に神威や祟りを信じて怯えたわけではない。どう考えたって足がつく話だと、そう思ったのだ。

 お前もつまらない真似は止せといさめた。しかし彼は歯牙にもかけない。


「実はな、去年もやってんだよ。でも何の騒ぎにもなってないだろ? 誰も気づいてないんだ」


 逆に得意げな顔で、そう言ってのけた。



 それから数日。

 祭りの日を過ぎて学校で会うと、彼は俺を見下したような顔をして見せた。多分、してのけたのだろう。だが詳しい話を聞く事はできなかった。

 その日の授業中、突然に彼は立ち上がった。全身がおこりのように震えていた。血走った目で、ただならぬ形相で中空を睨んで、


「返す! 金は返す! 返すから!」


 そう叫んだ。

 続けてまだ何か言おうとしたが、果たせなかった。

 目。鼻。口。耳。

 七孔から水のように血を滴らせて、そのまま死んだ。



 地元には小さな神社がある。

 小さいながらも秋口には祭りがあって縁日が立つ。

 だが以来、俺はそこへは近づかない。

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