はためく

 隣室でばたばたと音がする。

 何事かと見に行くと、窓が開いたままになっていた。まるで台風のように強い風にカーテンが揺られ、激しく窓枠に打ち当たっていたのだ。

 すわ泥棒かと身構えていた分、気が抜けた。

 窓を閉めておこうと部屋に入ると、一際ひときわの風でカーテンが更に大きく膨れ上がる。


 はためくその向こうに、人影が見えた。

 女の背だった。赤いカクテルドレスを着ている。女は窓の外にではなく、カーテンの後ろに、明らかに部屋の中に位置していた。

 顔は見えない。カーテンは彼女の胸の高さではためいている。

 女が向き直った。そして一歩、こちらへと近付く。

 俺は思わず後退あとずさる。


 その時、唐突に風が止んだ。

 カーテンが戻って、またもばしりと音を立てる。

 女の影は最早ない。窓とカーテンとの空隙には、やはり誰一人とて居ないのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る