久しぶり

 まだ幼稚園にも上がらない頃は、ラジオだけが私の話し相手だった。

 両親は共働きで、昼の家には耳の遠い祖母と私のふたりきり。だから私の声にこたえてくれるのはそのラジオだけだった。

 応えてくれる、は比喩表現ではない。

 私とラジオの間には、ちゃんと会話が成立していた。だから私は長い事、ラジオとは電話のように、あちらとこちらの声を繋ぐものだと思い込んでいた。

 今にして思えば、幼い子供が作り出す、空想の友達にだったのだろう。

 けれど年を重ねるにつれ私の世界は広くなり、家の事よりも外の事に関心が移行して、私はラジオを忘れた。



 再会したのは、先日の大掃除の時だ。

 ふいに出くわしたラジオを見たら、いっぺんにあの頃の気持ちが蘇って、胸は懐かしさで一杯になった。

 指先でほこりぬぐうと、


「よう、久しぶり。会いたかったぜ」


 ラジオは確かにそう言った。

 けれど喋ってくれたのはそれだけで、それきりもう二度と口を開かなかった。

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