3:REQUEST

僕が火野に渡した文書は以下のようなものだ。


『わたしは高校三年生です。

そろそろ本腰を入れて受験勉強に取り組もうと思っているのですが、そこである問題があってこのように依頼することにしました。

わたしには十年来の親友がいるのですが、彼女には今好きな人がいるようなのです。わたしも気になって彼女の想い人をちょっと調べてみたところ、どうやらその方には別に気になっている人がいることが分かりました。まだちょっといいなぐらいのものなのですが。

それを彼女に伝えるかどうかわたしは悩んで、時間だけが流れていきました。

その間にわたしが彼女の想い人を調べていたことがどこからか彼女に知られてしまい、わたしにはそんな気はなかったのですが、わたしもその人に気があるとか、その人の想い人がわたしであるとかと勘違いされてしまって、絶交を宣言されてしまいました…

わたしは、このまま卒業して彼女と疎遠になるのが嫌です。どうにか彼女の誤解を解いておきたいのです。できれば彼女の恋も成就させてあげたいでず。

これから受験が控えているのではやくなんとかしたいです。お願いします。』


「いや、全く分からなかったけど!」

待機位置に着いて火野が開口一番に言ったのが此れである。確かに着いてから話を聞いてやるとは言ったが。

「先に渡した例の依頼文を君は呼んで来なかったのか。」

「読んできたけど! その上で何一つ分かんないんですけど! そもそもアンタ誰? ここどこ? 待って、依頼って何?」

後二三個質問が加われば僕に飛び掛かって其の侭押し倒さんとする勢いで火野は問い詰めてくる。僕は背中を壁に預けてから、首だけを火野の方に向けて話し始める。

「君は順序云う物を知らんのか。問うのならば先ずは聞くだけの平静さを取り戻せ。」

僕を信用はしていないようだが、相手の意見に多少の是を認めたらしく、火野は一つ二つと深呼吸をして、「じゃあ、話してよ」と求めてくる。僕は満足して続ける。

「先ず、僕は誰かと云う問いだが、君は僕が何者だといいかね。」

「待って、質問したのアタシじゃなかった?」

「成程そうか。君は、僕には今の状態とこの先の事を教えてくれる者であって欲しいか。」

「聞いてる? アタシの話聞いてる?」

「承知した。」

「ダメだ、チェンジして!」

喚くだけ喚いて聞く姿勢を持たない彼女に僕は呆れつつ

「チェンジは無しだ。今此の場に其の役をやれる奴はいない。」

「なんでアンタが呆れ顔なのよ! アタシの方が今呆れてるわ!」

そう言いつつも彼女は此の侭では進展無しと判断し、また深呼吸して諦めた顔をする。

「分かったから……じゃあ、ちゃんとアタシに説明してよ?」

「当然だ。」

「やっと会話が成立した気がする…」

始めの勢いが無駄に空中に霧散して漸く話がまとまり、僕は語り始める。

「此の場所が何なのかは追々語るとして、時間が来てしまった。先に紹介しよう。君が気にしていた先の依頼書の件だ。」

「いきなり渡されたから読んだは読んだけど、あれ何なの?」

僕は掌を上にして腕を彼女の方に伸ばす。

「急に何?」

「君では無い。先ず、依頼主の紹介だ。」

火野は暫く首を傾げていたが、自力で気付いて自身の後ろを振り返った。

其処に立っていたのは一人の女子生徒で、宛もネット上でしか会った事の無い相手と会う約束をして待ち合わせ場所まで来たものの誰が其の相手か判らず漸く其れらしき人を見つけて恐る恐る声を掛けようとしているような表情で、但しそんな如何わしい事とは縁の無さそうな清楚な雰囲気を纏っていた。

「や、山!」

其の彼女がいきなり単語を叫んで、其れに驚いて突っ込みをしそうだった火野の口を押えてから僕は「河口湖」と答える。河口湖って何、と云う火野の突っ込みが幻聴として聞こえた気がする。

「よかった……じゃああなたが」

「どうも依頼を承った者です。」

胸を撫で下ろす依頼主に僕は答える、そして其れから火野を解放する。

「いきなり何するのよ!」

「山。」

不意に言われて火野は一瞬面を喰らうが、

「河、口湖?」

「此の通り、彼女も関係者ですので。」

僕は火野の疑いを晴らして依頼主に示してやる。依頼主とは信頼関係が大事であり、何も知らない火野に余計な振舞をさせる訳にはいかなかったのである。依頼主は本当に漸く安心して、火野の隣にやって来る。

「何この合言葉」

「山と河だと在り来たりで、偶然でも当たってしまう可能性が高い。其の点河口湖なら安心だ。」

「なんか釈然としない…」

眉を潜める火野を無視して僕は鞄から機材を取り出す。

「なんですか、それ?」

依頼主がそう尋ねてきて、隣の火野も覗き込んでくる。では説明していこうか。

先ず此処は二階建て倉庫の中だ。フィールドの近くに建てられた此の倉庫は運動部の機材、体育祭や文化祭でのみ使用されるような大型機材が収納されている。一階にある物は大方陸上競技用な為、高い頻度で持ち出される。しかし二階に置かれているのは年に一度出番があるかないかの機材であり、まず平常時に誰かが二階に上がってくる事はない。その為、僕達は二階に居た。

「第一に此れから行う事を説明しよう。依頼書にあった通り、此れから依頼者先輩の友人の告白を成功させる。」

神妙に頷く依頼主を見て、呆気にとられる火野に余計な言葉を挟み込まれる前に僕は話を続ける。

「此の倉庫の二階、此の窓からは丁度校舎の教室が見える。」

僕は其の窓を背にして、後ろを指差す。

「依頼者先輩や他数名の手を借りて、告白者が自分の教室で告白を行うように仕向けた。後は此の双眼鏡を使って此処から確認する。」

そう言って僕は二人に双眼鏡を手渡す。其れを火野は嫌そうな顔で受け取る。

「如何した。」

「だって覗きというか、なんか悪いことしてるみたいだし……ほら、二人を知ってる先輩なんてもっと気まずいんじゃ」

僕と火野は隣を見遣る。

「すごいです、これ! あんな遠くのものがこんなくっきりと!」

双眼鏡で見たり、肉眼で見たりと無邪気に窓に喰いついているのは当事者の関係者である。

「いや、意外にノっているぞ。」

「なんか悩んでたのが馬鹿らしくなった」

次に僕は二人に通信機とそれに挿し込むイヤホンを渡す。二人に渡したのは受信するだけのものだが、僕が使うのはインカムも付いた物である。片耳にだけイヤホンを入れて電源を入れると、丁度通信が入って来ていた。

「其れでは、今回の標的及び策戦の確認を行う。全員配置に就いたか。」

『こちら、M。配置つきマシた』

『つか、そうやって全員まとめるの俺の役目じゃねぇかなぁ?』

『あたしもついたよー』

と右耳のイヤホンから三人の声を次々に聞く。隣を見ると、火野も依頼主先輩も音声は聴こえているようだ。すると、火野が僕を手招きで呼ぶ。

「ねぇ、確かアンタ達って五人でいなかったっけ。あと一人は?」

僕も暫く待っているのだが。インカムのスイッチを入れ、呟く。

「矢張りあの機械音痴は返答出来ないか。」

『周波数は設定してやって、イヤホンもつけさせたんだろ? じゃ、音だけは聞こえてんだろ』

「それじゃこうやって通信機使う意味なくない?」

火野の声は左耳で聞く。

此の策戦において重要なのは綿密な連絡である。僕達は其れを此の通信機で成し遂げようとしたのだが、矢張り上手くいかないな。

『アイツはスマホもガラケーも使えねぇからな。他の手段がねぇ。これが最善策だろ』

只、マイクが使えないのでは聞こえていたかすら判らんからな。其れでも当人は何もせずとも情報だけは入ってくる分此の連絡手段は良いのだろう。

「判った。其の前提で話を進める。」

『了解っと。んじゃ、全員持ち場についたか?』

イヤホンの向こう側からの質問に他の受信者がまたイヤホン越しに答え、僕も返事をする。

『よし。Mは行動に入れ。他は全員その場に待機、合図を待ってろ』

此の言葉の後、暫くイヤホンからは音がしなくなる。集中して聞いていたのか、依頼主先輩は音が止まってから大きく息をする。

「はぁ、意外と本格的なんですね」

屈んで窓を覗き込む先輩に立ち上がっている僕は答える。

「普段更に厄介な状況を相手にしている為少し過剰にしている気もしますが。最善を尽くす意味はありますよ。」

「普段アンタら何してんのよ…」

膝を突いて首に掛けた双眼鏡を両手で持って火野も会話に入ってくる。僕は其れを見下ろす。

「何よ」

見ているだけで睨んでくるのだから質が悪い。

「いや、君も直ぐに信じたものだなと思っていた処だ。」

そう言われてから火野の気抜けした顔は段階的に眉を吊り上げていく。其れから思い出したかのように飛び上がる。

「そ、そうよ! こんな誰かもわかんないヤツの言う事、信じられない!」

先まで普通に会話に参加していたと云うのにどの口が言うか。

「そもそも、此れでも君と同じ組なんだが。」

呆れて僕がそう言うと、戦闘の構えを取っていた火野は簡単に体勢を崩して

「あ、いた……かもしれない…」

「おい。」

昨日の献立を思い出そうとするように朧気な記憶を彷徨う火野の反応を細めた目で僕は見る。

「見た事がないとは言わせんぞ。君が元山の処に来るまで彼奴とよく話しているを、しっかりと見ているはずだ。」

そう言う僕から目を離し、火野は視線を宙に一通り舞わせてから戻って来て僕を捉える。

「…でも名前も知らないヤツは信用できない!」

「名前は覚えていないのか。」

僕は其処まで影が薄い人間だとは自分を評価していないぞ。恐らく火野が周りをよく見ていないのが悪い。良し、そうに違いない。

兎も角、暫く火野は無視して置く。僕は首に掛けた双眼鏡を片手にして、校舎の見える窓際へ歩を進める。先輩は双眼鏡で窓の奥の校舎の中に視線を飛ばしている。

「何か見えますかね。」

「はい、ちょうど二人が教室に入ってきました」

予想外の返答に少し驚いて、僕は双眼鏡を目に当てる。

予定通りの教室は今や二人の人間しかいない。他の生徒は疾うに帰ったか部活で精を出しているのだろう。只、想定よりは少し時間が早い。

「それで、これからどうするんですか?」

恐らく双眼鏡を覗いた侭の先輩の声を、双眼鏡を覗いた侭僕は聞く。

「二人が教室に入った。各自動ける様に準備せよ。」

双眼鏡を下ろして、マイクで全員に情報を送る。一人を除いて三人の返答を受けて、此の場に緊張感が走る。

とは云え、直ちに何かが起こる訳でも無いだろう。丁度良いので僕は双眼鏡に齧り付く先輩に声を掛ける。

「此れから先ず行うのは告白を成功させる活動では無く、そもそも告白まで至れるよう妨害を阻止する活動です。」

依頼主は其れを聞いて僕の方を見る。

「告白の妨害?」

「そう、告白の返答云々の前に先ず告白がきちんと出来る様にしなくてはならない。告白が出来なくなる類の妨害阻止を行います。」

依頼者の目を見て僕は至って真面目に述べた。

「妨害って、そんなのそうそうあるわけないでしょ。それこそこの告白が失敗してほしいって思ってる人がわざとやるならまだしも」

壁に凭れて腕を組む火野が話に割り込んでくる。僕の事を信用していないと言う割に話は聞いていたらしい。

「意図的な行為者は必ずしも必要では無い。其れでも妨害は災害的に発生する。」

僕の言葉は反感を買ったらしく、火野は背中を壁から離して近付いて来た。

「だったら、どうやってそんな告白の妨害なんてのが自然にできるのよ!」

「簡単な処なら、打った野球の球が在らぬ方向へ飛んで行き教室の窓を割る等だ。」

「なるほど、それならありそうですね」

「ないです! もう、そんなことあるわけないし、っていうか校舎の前のフィールドは野球禁止だからそもそも無理!」

と云った話をしていると、金属音が僕達三人の耳に入って来て「やっべぇ! ボールが!」とフィールドの方から声がした。

「ボールが教室一直線です!」

「うそぉ!」

既に双眼鏡で見ていた先輩の横に、叫んだ火野が滑り込む。二人の女子高生が並んで双眼鏡で窓の先を見ている光景は中々に滑稽だな。

「どうしよう、ホントにボールが教室に、と思ったらボールが急に消えた!」

「いえ、何かにぶつかってはじかれた……そういう風に見えましたよ」

其の時に僕のイヤホンから、つまり他の二人のイヤホンにも声がした。

『よくやったぜ、ナンシー』

『ナイスショットデス、お嬢!』

其れを聞いた二人が僕の方に振り返る。其れから思い掛けず有名人に会った様な口調で問うて来る。

「まさか、今のアンタたちがやったの⁉」

僕は大きく頷いて見せてから、イヤホンの入った右耳を叩いて示す。

「ということは、さっきのナンシーって人がやったんですね! ナイスショットってことはもしかして狙撃したんですか?」

僕はまた頷く。其れに満足した様に依頼主は目を輝かせて、「本当にすごい方なんですね、ナンシーさんって! もしかして外国の方…?」と宣う。僕としてはそう褒められる奴では無いと思うが。

「どんな方なんですか、ナンシーさん」

如何と言われても。咄嗟に形容する言葉も浮かばなかったのだが、都合よくナンシーからの通信が入って来た。

『ま、あたしなら当然当然! 百中のガンマン、それがあたしだよ』』

今度は火野の呆れた様な幻滅した様な顔が見える。

「さっきも聞いた声だけど、やっぱりこれ日本人よね?この自信たっぷりで」

「自分大好き、即ちナルシストこそがナンシー。寧ろ、ナルシストだからナンシーと言うべきか。」

「その二つの名前が全然繋がらないんだけど」

「ナルシーよりナンシーの方が外人らしくて、本人が気に入ったらしい。」

火野はがっくりと項垂れる。

「やっぱりプロの方は自分の技術に絶対の信頼を置いているんですね、かっこいい!」

先輩の方は豪く気に入った様だが。此の侭ナンシーの処まで行って、直接感想を言ってしまいそうな勢いだ。感想は手紙の形にして貰おう。

「使用しているのは改造エアソフトガン。校舎の外からの妨害への対策がナンシーの担当だ。」

「むしろ、その子の方が危険よね」

「兎も角、気に掛けない間に校則を破って野球をしだす輩が現れたのは想定外だ。また同じ様な事が起きたら敵わん。直ちに対策を講じる。」

「対策ですか?」

僕はマイクのスイッチを入れて声を吹き込む。

「策戦の一部変更だ。此の場合、副会長が適任だろう。」

『聞いてたな。返事はいらねぇから、持ち場を離れて処理してくれ。頼むぜ、風紀委員さんよ!』

僕の策戦変更を聞き入れて、指揮官が重度の機械音痴を現場に向かわせる。

「適任とか処理とか言ってたけどどうするのよ。狙撃でもして追い出すの?」

「いや今は武力には頼らない。使うのは、我々の持つ権力だ。」

「権力って何?」

暫く経つと、双眼鏡を覗いていた先輩が声を上げる。

「誰かが野球している人たちのところに歩いていきますよ?」

火野も僕も双眼鏡を手に取る。

「なんか歩いて来た女の人が叫んでるみたいね」

「でもまったく聞こうとしないですね。あっ、一人がやっと振り返ってやって来た人の方を見ましたよ」

そして、野球をしていた悪童たちは其れまでの校則などお構いなしの傍若無人な態度を瞬時に改めて、球とバット、置いておいた鞄を必死に掴んで蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。

「あれこそが権力だ。」

「どんな魔法を使ったのよ!」

大声で疑問をぶつけてくる火野に僕は耳を傷めつつ、説明を始める。

「僕達の副会長は重度の機械音痴で、風紀委員と云う事だ。」

「全然意味わかんない」

「理解しようとする姿勢を見せてからそう言い給えよ。」

副会長は悪童を追いかける様な事はせず、腰に手を当てて走り去るのを見届けてから校舎の方へ戻っていった。僕は其れを確認してから双眼鏡を外す。

「彼女は風紀委員も兼任している。其の上で、僕達の中では副会長と呼ばれている。」

「まんまなのね」

「校舎の方に戻っていったのには何か意味があるんですか?」

先輩は恐らく。双眼鏡で副会長を追っているのだろう。其の後ろ姿に僕は答える。

「副会長は校舎の内部からの妨害の阻止が役割です。教室に突然第三者が乱入すると云った事態を避ける為、件の教室の廊下を中心に当事者に気付かれない様に細心の注意を払って警戒に当たっています。」

「そこまでする必要あるの?」

呆れて言う火野ではあるが、此の世界には此処までの警戒をしたとしても其れを擦り抜ける輩がいるのだ。最善を尽くさねばならない。

「さて、校舎の内と外の対策は講じた。では後にすべき事は何か。」

「まだやる事あるんですか? てっきりこれで全部かと」

「其の手抜きの為に依頼を果たせなかったとは言えないのでね。」

そろそろ準備が終わる頃だな。依頼者に説明しつつ僕は腕時計を見遣る。

「でもこの状況ならもう誰も二人の邪魔なんてできないでしょ」

「ですよね。そもそも教室の中に入ることが無理ですし」

首を捻らす二人に僕は多少勿体ぶって順立てて述べる。

「確かに今から教室に侵入する事は不可能。其の様に二人を配置したのだから当然と云えば当然。それでも妨害が出来るとすれば、既にもう教室の中に侵入している、或いは侵入する為の経路は用意出来ている者だけだ。」

「まさか、掃除用具入れの中に潜んでいる人がいるんですか!」

「いや先輩、流石にそれはないですよ」

僕はポケットから其れを取り出して見せる。其れを見て火野は呆気に取られた顔をする。

「そう携帯電話だ。告白の正に其の瞬間に着信でもあれば雰囲気と云った物が一発で棄却されてしまう。加えて告白者が其れで怖気づいて断念する可能性もある。通信機器は個々人の会話に大変容易に侵入可能な媒体だ。」

先輩は感心して頷くが、疑い深い火野は矢張り納得していない様で直ぐに反論してくる。

「そうだとしても、そんなのどうやって対策するのよ」

「まあ待て。そろそろだ。」

時計を覗く僕を火野が訝しんでいる。其れを反射した時計の硝子の中に見ていると通信が入ってくる。

『こちらMデス。準備完了、いつでもいけマス』

『よっしゃ、教室の中はどうだ?』

「今、電源を入れる。」

僕はそう答えて、鞄から出して床に置いておいたノートパソコンを操作する。

「音量は此れ位か。」

内臓スピーカーの音量を調整する。其れから依頼主先輩を手招きして屈ませ、パソコンに近付かせる。手振りでスピーカーの音を聴く様指示して僕は立ち上がる。

「なにしてるの?」

「教室の中の様子は此処から見ているだけでは判断できない事がある。よって盗聴器を使う。此れは教室に仕掛けた盗聴器の音声を拾っている。」

「と、盗聴器!」

素っ頓狂な声を上げた火野を直ぐに僕は制する。

「使用する時間は出来る限り減らしたい。良心の呵責もある上、依頼主にも聞かせる為にスピーカーを使わざるを得ず倉庫の中に誰か入って来た際に聞かれる危険も高いからな。」

「一応、アンタにも良心とあったんだ」

「失敬な。」

スピーカーに耳を傾けていた先輩が告げてくる。どうやら告白者がタイミングを計っているらしい、其の辺りは矢張り親友にしか判らないものがあるのだろう。

「良し。M、起動してくれ。」

『了解デス。スイッチオン!』

『んじゃ、俺もぼちぼち動くぜ』

策戦は最終段階に入る。此処からが本番だな。

「ねぇ」

「なんだ。此処からは時間との勝負なのだが。」

「だって結局ケータイなんてどうするのよ。なんか起動するとか言ってたけど」

「携帯電話の通信を妨害する装置を設置して今起動した。」

「はぁ?」

何を言っているのか分からない或いは分かっても正気とは思えないとでも言いたげな火野の声を僕は流して、パソコンの前に跪く先輩とアイコンタクトを取る。何かあれば直ぐに教えると先輩は理解して頷いてくれる。

「いやそんな装置どう考えたって準備できるわけないし!」

「まああれはかなり重かったな。だからこそMに其の役割を任せたのだが。其れより此れから最後の詰めだ。其の事は置いておけ。安心し給えよ、電波の妨害時間を最小限に収める様にはしている。」

火野は納得していないが理解はしたと顔を打切ら棒に背ける。理解を得られただけで良しとしよう。しかし、火野は暫くするとまた僕の方を向いてくる。

「ねぇ、三人はそれぞれの対策を担当していて、あと一人は多分指示しているっぽいけど、アンタは何の担当なの?」

今更其れを聞くのか。

「僕は策戦立案担当だ。今は依頼者の対応と云うのがある。ただ」

双眼鏡を手に取って、教室の直ぐ下の耐震工事で中に埋め込んだ鉄筋の為に凹凸の出来た校舎の壁を見る。

「僕の策戦は完璧だ。」

双眼鏡を外すと、僕の視線を追って火野も同じ方を見ていた。

「なんか誰かが壁をよじ登ってるんだけど」

「あれが僕達の指揮官だ。」

「何してるわけ?」

遂に何を見ても驚くより先に呆れる様になった火野が尋ねる。

「言っただろう。此処からが最終段階。告白の妨害を阻止し、次にするのは告白を成功させる事だ。其の為には、壁に張り付いている会長と廊下で待機している副会長が連携を上手く取る必要がある。」

ふーんと呟く火野と共に教室そして壁に張り付く男を固唾を呑んで見ていると、教室からの音を聴いていた先輩が割り込んできた。

「でも、その副会長さんって返事ができないんですよね? それで大丈夫なんですか?」

「あ。」

「どこが完璧な作戦よ!」

いやまだだ。僕はもう一度教室を見遣る。告白者が窓を背にして立っている。

「いや此の配置ならフリーダム星人だけでも実行は可能だ。」

「待って? フリーダム星人ってなに?」

火野の言葉を無視して僕はマイクに声を送り込む。

「おい、フリーダム星人。今の配置なら君だけでも実行出来る。此方のタイミングで動け。」

『だよな! やっぱ、副会長と一方通行の通信じゃ支障でまくりだったよな!』

「気付いていたなら早く言え。」

悪態を吐いて僕は先輩に顔を向ける。

「どうですか、そろそろ。」

「すると思います、告白」

先輩は親友の告白を前に少し緊張した顔をしていて、僕と火野も注意して音を拾う。


そして、定型文の要素を含みつつもきちんとその人となりが分かるような言い回しで、しどろもどろではあっても兎に角言葉にしようとする気持ちが感じられる、そんな告白を僕達はスピーカー越しに聴いた。


先輩は目を固く閉じ、火野は耳を真っ赤に、頬を朱に染めていたのだが、其れを弄る余裕は今僕には無い。僕はマイクを手に取る。

「今だ。」

窓から教室の方を見る。教室の窓下に構えたフリーダム星人が窓に向かってノートを張り付ける。窓を背にする告白者に向かい合う男は、当然窓の方を向いている。故に其のノートを誰より早く認識する。中身もな。

「な、なによあれ」

少し裏返った声を出した火野が尋ねてくる。

「今告白されたあの妬ましい男子高校生の中学時代のノートだ。とある経路で入手した。」

「それってまさか…」

「思い出したくもないだろう自作の歌詞がびっしりと書かれたノートだ。」

告白された事を含めて教室の男子生徒は思わず前に飛び出す。突然の事で告白した側も驚くが、其れ処では無い男子生徒は目の前の机に足を引っ掛け、告白してきた女子生徒に覆い被さる様に倒れ込む。

其の様子を双眼鏡で見ていた僕はこう言う。

「こうして男が女を押し倒すと云う構図が出来上がった。後は男子高校生の肉欲の効果によって告白は容易に成功する。」

「それのどこが完璧な作戦よ!」

同じ突っ込みを二度使うとは何と芸の無い事か。

「それにほら! 先輩だってこんな形での成功なんて許さないでしょ!」

僕と火野は隣を見遣る。

「誰もいない教室で男女が二人っきりで……むふふふ」

僕は火野を見遣る。

「なによその顔は!」


「とは云え、此の神聖なる学び舎にて公序良俗に反する行為等許されてはならない。」

「どの口が言うのよ」

僕は無視して話を進める。

「何かしらの羨ましい、もとい許されざる事が起きる前に手を打つ。」

「今うらやましいって言ったわよね?」

僕はまた無視してマイクを手に持つ。

「フリーダム星人は直ちに其の場から離脱、副会長は教室に突入。Mは装置を停止させろ。」

こうして各々が動き出す。フリーダム星人(以下FD星人)は壁を下っていき、其れと同時に副会長が教室に突入する。

「突入してどうするんですか?」

「まあ聴いていて下さい。」

「ていうかなんで先輩ちょっと残念そうなんですか!」

未だつけた侭の盗聴器から音が流れてくる。突入した副会長は偶然教室に入って来たかの様に驚きをもって床に倒れ込む先輩二人に注意する。本人の意思と無関係に現状に陥っていた二人は慌てて飛び跳ねる様に離れて立ち上がる。

『学校ではそのような公序良俗に反することはやめていただけますか』

『ご、誤解です! えっとそういうのじゃなくて、たまたまそうなっただけというか…』

動揺してとりとめのない事しか言えない先輩に対して副会長は溜息をついて

『個人の問題ですから恋人同士で何をしようが風紀委員は口出ししませんが、生徒が共有している教室では謹んで下さい』

目を瞑り腕組をして説教する副会長は言葉の切れ目で片目だけを開けて目の前の先輩二人を捉える。

『どうしたんですか。お二人は恋人なんですよね?』

副会長が核心を突く言葉を吐いた。其れを聞いて依頼主先輩が感心して声を上げる。

「なるほど、こうやって彼の意思を確かめるんですね」

「誘導尋問じゃないこれ?」

「当事者間だけでは、返事は後日と云う事にも成り得る。此れは其れへの対策。第三者に問い詰められ答えざるを得ない状況を生み出した。」

「でも、これでまだ付き合ってませんとか言われたらどうするの」

火野意見は尤もだ。パソコンの前で座る僕達は少し緊張して様子に耳を澄ませる。

「しかし然し、告白者の好感度は既に一定数に達していたはずだ。切欠さえあれば否定する要素はないと思うのだが。」

僕達が裏で話していると、副会長が早くも業を煮やしたのか最後だと言わんばかりに更に問い詰める。

『お二人は付き合ってるんですよね』

多少不自然にも見えるが大丈夫か、副会長。質問の趣旨が変わっている様に捉えられかねない。

しかし先輩たちは其れ処では無かったらしい。少しの間を空けて告白された男は口を開いて明確な、誰にでも判る言葉で告げた。

「はい、付き合ってます」

漸くだ。僕は手の甲で額の汗を拭った。

盗聴器を切る。窓から見える教室では副会長が立ち去っており、残された二人が抱き合っているのが見えた。見てられないな。良い意味でだが。

倉庫の中に視線を戻すと、少し目を潤ませた依頼主が其の興奮を火野と分かち合っていた。余り乗る気でなかった火野も先輩に同調して感情を露わにしている。

僕は其の様子を遠目で眺めながら、マイクを手に取る。

「依頼完了。撤収に入る。」


※※※

下校時刻の近付く夕方、僕達は依頼主先輩の背中を見送っていた。

倉庫から出た後に、FD星人、ナンシー、Mと合流、校門から少し離れた処で依頼主の御礼を受け取り、其の侭帰宅して頂いた。御礼とは其れこそ正に感謝の言葉だが。

「元々、金銭の絡んだ依頼を承った訳では無いしな。」

火野は紙パックのジュースをストローで飲みながら相槌を返す。ストローから口を離して「あっおいしい」と呟いてから火野は言う。

「じゃあ、なんで依頼なんて受けてるのよ。なんかの部活とか委員会とか?」

「そんな処だな。そもそも校内で金銭の受け渡しなど校則違反だ。」

「アンタたち、もう何かしらの校則破ってると思うけど…」

僕は缶の縁に残ったコーヒーの滴を啜る。

「因みに訊くが、其のパックは如何した。」

「これ? さっき、そこの男子、えっとMだっけ? にもらったけど。アンタと違って意外といい人じゃん」

パックを持った手で火野が差す方にいるMを見てみると、FD星人が突っかかっている。

「なんで俺の分はねぇんだよ!」

「ミーは女性の分しか買ってきてマセんよ。自分の分を買うなんてもってのほかデス」

そう言うMを前に、FD星人は額に手を当て項垂れるしかない。

「レディを大切にする精神、やっぱりいい人じゃない」

「紳士、か。」

敢えて含みを持った言い方を僕はする。そうして火野を怪訝そうな顔にしていると、ベンチに座っていたナンシーが野菜ジュース、あれもMが買ってきたのだろうが、其れを一気に飲み干した。其れを捉えたMは透かさず次のパックを差し出して

「いやーさっきの銃の威力! ぜひにミーにも打って下サイ!」

狂歓声と共にMが吹っ飛んでいく音がした。流石の威力だな。

「此れで、彼奴がMと呼ばれる理由が判っただろう。」

「まんまじゃない! もしかしてこのジュース受け取ったってことはアタシもなんか…その殴ったりしなきゃいけないの!」

余計な事は言わん方が良いと思うが、と僕が言う前に、吹っ飛んだ先のMの目の色が変わっているのを僕達は見た。

「なグる…?」

「なんかこっち見た!」

一つ跳ねた火野は小動物の如き機敏さで視界から消え、Mはかなり本気だったナンパに失敗したかの様に落胆を顔に出す。

落胆するなら見境なくプレイ相手を求めるのを止めればいいだろうに。

「いや待てよ……テメェはコーヒー飲んでんじゃねぇか!」

今更か。関係無い処で顔を上げたFD星人が僕にそう言ってくるが

「此れは自腹だ。」

缶を振って見せてやった。


「これで火野さんが戻って来なかったらどう責任とってくれるのかしら?」

Mの腕を有らぬ方向に力尽くで曲げる副会長だが、Mの恍惚の表情を見るに其れは折檻として機能していないと思う。

「てか副会長、このまま風紀委員の仕事もしてくんじゃなかったのか?」

FD星人が自分の鞄を漁りながら言う。

「さっきの騒ぎが窓から見えたのよ」

副会長がぱっと手を離して、Mが其の場で崩れ落ちる。其れを含めて満更でも無さそうなのが此奴の凄い処だな。

「それで、火野さんにはどこまで説明したのかしら?」

副会長の質問は、FD星人の視線に導かれて僕の元へ飛んでくる。

「殆ど説明していない。」

「ダメじゃねぇか!」

「どうするのよ、もうすぐ下校時刻なのだけれど」

「策戦中は時間が無かった故仕方ないと思うのだが。下校途中で話せばいいだろう。」

物言いたげな二人の目を無視して僕は会話を進める。

「直ぐに下校時刻となるのならば、先ずは火野を探す方が先決だ。担当場所を決めて分かれて探すとしよう。割り振りは会長に任せる。」

「ったくしょうがねぇな…じゃ、副会長は本校舎内、Mはここから一番遠い体育館方面、俺は部室棟周りで、ナンシーが……ん? どうした、ナンシー」

割り振りの途中、既にMは己の足を酷使する事に喜びを感じながら走っていったのだが、ナンシーが手を挙げてFD星人は話を止める。ナンシーは其れを待ってから、横の方を指差して

「もう戻ってきてるけど」

縮こまる様にベンチの端に座る火野を示した。

「いや、早く言えよ! もうMの奴行っちまったぞ!」

「いえもう帰ってきマシたよ」

「お前は早ぇな!」

寧ろMは戻ってこない方が火野にとっては良かったのではと思い見遣ったのだが、意外にも火野は怯えた様子も無く座っていた。

「ま、まあ、一応ジュース奢ってもらってるし」

僕の表情を汲み取って火野はベンチに置いた自分の紙パックを見ながら独り言ちる。其れを聞いてかMも火野の前に立って

「先ほどはどうも失礼しマシた、驚かせてしまって」

対応自体は紳士的である事は事実だからな。怯えている自分を見せたくないとばかりに火野はMの話を聞いて居座っていたのだが、副会長に気付いた火野が声を掛ける。

「もしかして、噂の副会長さん?」

訊いてくる火野では無く、副会長は僕を睨んで

「何を吹き込んだのかしら?」

「何も。それより君は答えてやるべきだろう。」

白々しく見えるように僕は両手を挙げて告げる。副会長は不満気に顔を背けつつも、其れ以上追及してこなかったことから考えるに恐らく多少は僕の言い分を認めたらしく、火野に返答する。

「そう。私がこの組織の所謂副会長。一人だけ役職で呼ばれるのは納得がいかないのだけれど」

其れは僕達も初耳だぞ。

「まあそこの異常性癖者が変な事をしたらきちんと対応するから安心なさい」

そう言って副会長は中身の残っていないパックをベンチから拾い上げて歩き去っていった。校舎に戻って風紀委員の仕事をするのだろう。

「倉庫から見たときも思ってたけどすごい人って感じがするし、それに優しい」

「優しい、ねぇ?」

ぬっと割り込むようにFD星人が火野の言葉に口を挟む。

「…なんで、アンタもそういう言い方するのよ」

拗ねた顔で火野はFD星人の顔を押しのける。そうされながらFD星人は

「も、ってなんだよ、もって」

僕はその二人を他人事に見て、

「其の意味なら直ぐに判る。兎も角下校時刻まで僅かだぞ。」

「もうそんな時間かよ。とっとと外出ねぇとヤバいな」

FD星人は火野の手から脱して、地面に置いておいた自分の鞄を拾い上げる。

「ナンシー達は……もう準備できてるな。ほら、火野もはやくしろー」

「はやくしろって、まだアタシの話は終わってないわよ!」

火野が抗議する中でもFD星人、ナンシー、Mは手早く帰り支度を済ましていく。僕も自分の鞄は肩に掛け、火野の鞄を持ち主に渡してやる。

「すぐにわかりマスよ。それこそあと五分もしない内に」

Mの言葉に口を尖らせつつも火野は鞄を受け取って、僕達は校門へ歩き出した。


校門から出た処にある学校名を彫った石碑、結局僕達は其の周りに荷物を下ろして、囲う石垣の上に腰を下ろしていたりしていた。

「そう言えば、副会長さんは来ないの?」

ナンシーの隣に座る火野が疑問を放る。

「もしかして、今まで下校時間ぎりぎりまで学校にいたことない?」

答える代わりに疑問で返したナンシーに対して、火野は少し面喰ってただただ頷く。それから思い出したかのように言葉を続ける。

「部活にも委員会にも入ってないし、映研でももっとはやく切り上げちゃうし…」

「それなら、ちょっと驚く光景が見られるよ」

圧倒されるままに「へぇ…」と返して納得しかけた火野は、途中で気を取り直して

「待って、副会長さんが来ていないことの説明をもらってない!」

しかし、ナンシーはもう言うべきこと、いや言いたいことは言ったと校舎の方を向いてしまう。

「簡単に言ってしまえば、副会長は今風紀委員の仕事で校舎に残っている。」

「じゃあ、ここでそれを待ってるってこと?」

「そうそう。一応お前に色々説明したいから待ってろって、風紀委員様のお達しだぜ」

そろそろか。火野とFD星人の会話を小耳に腕時計を見てみれば下校時刻は秒単位で迫っていた。

「ついでに聞いときたいんだけど」

「時間が無いから手早く済ませ給え。」

「なんでさっきから必死の形相で駆け込んでくる人がいるの?」

「走り込みでもしてんじゃね?」

「それが何人も続くから訊いたのよ! 朝ならまだしも今はおかしいでしょ! なんか逃げてるって感じだし!」

「強ち間違いでも無いな、逃げているというのは。」

時計を見て、僕は校門の先、つまり学校敷地内を指差す。


こちらに向けて走ってくる三つの男子生徒の人影。鞄から察するに恐らく運動部、練習が長引いたか或いは片付けに手間取ったか何かでこんな時間になってしまったのだろう。声を出して互いを叱咤し合うのはまさに運動部の青春というやつだ。その時鐘が鳴る。終了の合図だが、鐘が鳴り終わるまではセーフ、彼らはそれを知っているのだろう、諦めることなく走り続け、一人目が校外へ出ることに成功。続いて二人目が、という所で三人目が蹴躓き倒れ込んだ。先に行けという三人目に、二人目は首を振って手を伸ばし、一人目はまた校内に戻ってくる。そして鐘が鳴り終わる。

二人の手を借りて立ち上がる三人目。そして迎えが来た。

風紀委員に連行された三人は互いに励ましながら、校舎の奥へと消えていった。


「いや、全く分からなかったけど!」

さっきも聞いた様な言葉だ。火野は去りゆく人々を指差して捲し立てる。

「なんで感動話みたいになってるの! 副会長さんがどうしてあの三人を連れて行くの! そもそも消え去ったってどこに連れてかれたのよ、あの人たちは!」

「一度幾つも尋ねるものではない。答える側の身にもなり給え。」

僕は一呼吸おいて話を進める。

「副会長が風紀委員ということは教えた通りだ。」

「だからあの野球してた人を追い払えたんでしょ」

「風紀委員の仕事は主に校則を破る生徒への対処だ。故に彼女は風紀委員として彼らを連行した。」

「うちの学校は時間に厳しくてなぁ。今の三人は下校時刻を破ったから、ああやって連れてかれたと」

僕の話を引き継いだFD星人が代わりに火野に説明した。

「じゃあ、連れて行かれるとどうなるのよ?」

「行ってみたらわかんだろうよ。今からでもそこの境界線を跨げば連れてってもらえるぜ?」

そう言われた火野が少し先の校舎を見遣った丁度のタイミングで、断末魔の叫びが風に乗って流れてきた。両腕を掴んで震える火野。

「ほんとに何されてるのよ!」

「俺はマジで知らねぇからな。ただ、わざわざ自分から飛び込んでいったバカは知ってるが…」

そういうFD星人の視線で指し示すのはM。それを見て火野が

「それで、ああやって木に縛りつけられてるのね…」

「下手に風紀委員の仕事を増やしてやるのも気が引けるのだよ。Mが捕まりにいった際の事を訊いた限りでは散々だったらしい。」

僕はそう答えた。すると火野は意を決したようで、俯き加減のMに話しかける。

「ね、ねぇ? それで、どうなの?」

話し掛けられたMは急に顔を上げて、その顔は如何わしかったのだが、

「正直ここを抜け出して、副会長サンのトコロに逝ってしまいたいのはヤマヤマデスが…ここでこうしてお嬢に拘束プレイされるというのもミー的には捨てがたく、この二者択一がミーを苦しめマス……しかし! この引き裂かれる感覚もまた、病みつきになるほどの快感でありマシて!」

「それぐらいにしとけよ、完全に火野の奴ドン引いてるぜ」

かくいう火野は、子供の頃よく行っていた遊園地のゴミの掃き溜めを見てしまった時の顔をしていた。Mが縛られた木の裏側からナンシーが出てくる。

「いやー、こうも毎回縛ってると、あたしもこう、縄になれてきちゃうよね」

「嫌な職業病だな。」

「最近は自分も縄抜けもできるようになって」

「それは大変役に立たんな。」


それから学校敷地内から青春の賑やかな気配が流れ出て、夕闇と共に静けさがやってきた頃合いに、副会長が漸く戻って来た。

「思ったより早かったな。」

「今日は少ない方だったわ。まあ私達の仕事が少ない分には問題がないのだけれど」

因みに風紀委員に連行された生徒は、裏門から帰るよう指示されているらしい。正門から帰る資格はないとでも言わんばかりだ。

「…ひとついい?」

親指と人差し指で顎を挟んで考えるようにする副会長が尋ねてくる。

「どうして火野さんは私から隠れているのかしら?」

木に縛りつけられたMの横に立つナンシー、その背中に隠れて火野が此方を窺っている。どうやら副会長、意外にも動揺しているらしい。表情で判る。代わりに答えたのは

「自分の胸にきいてみろっ!」

ナンシーだ。火野を庇うように立ってはいるが、さては此奴それが言いたかっただけだな。

そしてそれを真に受ける副会長。更に自己反省が加速する。そして、漸く止めて顔を上げた思えば、副会長は鞄の中から何かを取り出す。

「ここに一本の野菜ジュースがあります」

「そ、それは、一部店舗でしか売っていない限定版! しかもあらごし!」

ゆっくりと上げた手が敵役の方に伸びていくナンシーは、苦渋の決断とばかりに火野の方を向いて

「ごめん、眞朝ちゃん。あたし、欲望に忠実に生きていたいっ!」

「そんなことで裏切るのやめて!」

かくして護衛ナンシーは火野の元から去っていったのだった。

「いや、はよ帰ろうぜ!」

僕としてはFD星人の意見に大いに賛同しよう。


Mの縄を解いて、この際にMが過剰に落胆していた事は言うまでもないが、僕達は漸く歩き出した。車道から一段高くなっている歩道を二列で歩くのは副会長と連れ立って帰る時の僕達の常識だ。さもなくば何を言われ、如何なる折檻が待っているか。

「それでも火野さんは私を避けるのね」

隣の副会長が僕に聞こえる様に独り言ちる。風紀委員と云う職業柄、生徒に恐怖の対象と捉えられるのは避けられないが、副会長はその優秀な仕事ぶりから特にそうだ。後ろを振り返れば、最後尾、ナンシーの隣で火野は初めての場所で怯える小動物のように付いて来ていた。

「おいおい、こんな状態で火野に説明しろったって無理じゃねぇか。だいたい、この歩き方で話すってだけで難しいし」

後ろからFD星人がそう言う。しかし、副会長は臆する事無く返す。

「大丈夫よ。そこの道を曲がった先の公園に寄るわ」

「それって寄り道じゃん。いいのかよ、風紀委員様」

「そこで何をやっていたか、きちんと報告書を出せば問題ないわ」

つまり僕の仕事と云う訳か。そういった視線を副会長は一瞬僕に向けた。

「それに他にすることがあるのよ」

副会長の含み笑いの意味が僕はある程度の判ったのではあるが、それを当人に告げれば矛先が僕の方へ向きかねない。よって僕は此の侭何も知らない、気付かないと云う姿勢でいくとしよう。


[成翔高等学校は創立以来の校風として、学内恋愛に対し一貫して厳しい立場を取っている。この学校を受験し入学してくる生徒は当然それを承知して来るとはいえ、幾度にも渡り、この校風を時代錯誤だと批判し排しようとする学生運動があった事は想像に容易い。

それを乗り越えて今この時点においても尚、最も厳格であった時期からは多少なりとも譲歩はあったが、この校風が残っているという事実、それは単に教師陣だけがこの校風を固持しようとした訳ではない事を導き出す。

代々の生徒会は、その校風を守る意志のある者が務めてきたという歴史がある。そうなる様に誰かが仕向けたのか、或いは偶然にもそうなった所謂ジンクスめいたものなのかは未だ定かではないが、彼らの尽力によって校風は守られたと言えよう。その上で生徒側ともきちんと協議し、妥協すべきところは妥協してきたのだから凄い。

当然現生徒会も今までの系譜を受け継いでいるのだが、年度頭に行った委員会部活及び同好会の一斉調査で生徒側から不満を持たれる事になる。

この一斉調査で現生徒会は自分たちが相当に厳しく進めていくことを宣言したとも言えよう。教師側としても一部不透明な部分があった同好会や委員会の調査とあっては止める理由もなかった様に思える。加えて生徒会内に属する風紀委員を用いて学内恋愛を厳しく取り締まる事もした。前生徒会が穏健派であった事も含めて生徒の間で再び不満が溜まり始めた事は言うまでもない。しかしこの厳格な生徒会は去年の穏健の反動とも取れなくはない。

さて、部活等の一斉調査によって幾つかの組織が解散となったのは一つの側面として存在するが、別の側面として新たな組織ができた事もここで付け加えなくてはならないだろう。公的範囲では、生徒会内所属として部活や同好会の管理を担当する部署の設置はその一端だ。勿論もっと生徒側寄りの、つまり新しい同好会も誕生している。それが映研、映画研究会である。

映研ができるまでの過程に関してはまた別の語り手の方が優秀であるため此処では詳しくは記述しないが、調査が始まった段階では頭数に関わる問題を抱えており、調査自体が終わってから漸く人数が揃って生徒会に公認された事は知っておいてもらいたい。生徒会とて生徒側の要求を何もかも拒絶する訳にもいかず、生徒会の出した条件を満たしてきた映研を認めない訳にもいかなかった。生徒会の根幹に何時までも存在し続ける「生徒の自主性」を迫害する事は出来ないのだ。

こうして映研は設立まで漕ぎ着けたのだが、問題は此処で発生した。いや既に発生していたというのが正確な所だ。

元山住吉を核とするハーレム形成の可能性。

男子生徒一人と女子生徒四人で構成されているというだけでそれを持ち出すのは余りに突拍子もないはずだが、当時調査の後始末に追われており今後の危険性を鑑みて判断出来ていなかったと生徒会は非を認めている。生徒会の言い分としては、この映研の構成員比を関係者以外に知られると、ハーレムと云う不誠実な存在を認めていたとされて普段厳格さを前に出している生徒会の面目が立たないらしい。そこに映研が真実、ハーレムであるかどうかは関係ないのだ。

そこに名乗り出た者がいた。何処からか情報を知った者、後にそいつは映研の一人を尾行して知ったと発覚するのだが、その者に加えて四人が映研に関する問題を一手に引き受けようと申し出たのだ。新たな政策の準備や学校行事の時期も重なり、手が回りそうになかった生徒会としては渡りに船である。この映研対策組織は存在すら知られる事は危険であり、加えて当人達たっての希望により、この組織は生徒会内所属ではなく、生徒会外部委託という形を取る事となる。生徒会はこの組織の元山ハーレム解体における要請を出来る限りで果たすと云う契約の元、この組織は活動を開始した。

この組織、名をH.E.Ysという。

映研に部室を与える事で外部の人間に活動を見られる可能性を極力減らす様にする。同じくH.E.Ysもその存在を隠すために人目につかない処に本部を構えるべきとして隔離校舎の一室を使用させる。映研の新入部員の勧誘を一時的と称して差し止める。以上はH.E.Ysからの提案として採用されたものである。またどういう経緯か元山と既に関わりがあり、映研に更に増えかねなかった女子生徒、金子、木村、中城らを、H.E.Ysは元山ハーレムに加わることがない様に処置をし、着実に成果を上げていた。また、生徒会に対する生徒側の不満を減らすべく、生徒会非公認を称した相談箱を設置し、生徒会には相談出来ない依頼を受け解決するというサービスを始めた。そしてこれを生徒会は認知している。ある種のマッチポンプだ。

H.E.Ysの最大の目的は元山ハーレムの形成阻止或いは解体である。飽くまでそれだけであって、映研そのものを廃部に追い込みたい訳ではなく、全員がそれは避けるべきだという判断を共有している。]


僕達が訪れたのは小さな公園だった。滑り台とブランコ、鉄棒、砂場、後はベンチが置いてあるだけだ。元々明らかな遊具不足、加えて時間も時間であった為、公園には僕達以外には誰もいなかった。

火野はベンチに座り、副会長がその前に立って話をする。ナンシーはブランコを漕ぎ、僕とMはその周りの柵に腰掛けた。

そしてFD星人は鉄棒に、座っている訳ではなく、ぶら下がっている訳でもない。いや、ぶら下がってはいるな。ただ通常思い浮かぶ様な向きではない。足は縄で鉄棒に固定され、手も縛られ、要するに蝙蝠の如く逆様に吊られている。口にガムテープを張る事で、近隣住民への騒音問題の対策をする辺り、流石副会長抜け目がない。そもそも悲鳴を聴かれたら通報モノではある。

「とまあ、以上が私達の役割ってところかしらね」

簡単な経緯を説明し終えた副会長が、感想を求める様に火野に声を掛ける。対し、その火野は鉄棒に吊るされているFD星人と副会長を交互に何度も見て

「た、大変よろしいと思います、はい!」

怯えて言った。

「其処はフリーダム星人の状況に突っ込みを入れる処だろうに。」

「完全に怯えきってマスね。副会長サンの思惑が大きく外れマシた」

二人とは少し離れた処で僕とMは話していた。

「それに会長サンもいいかげんにして欲しいデスね」

「確かにそろそろ学習してもいい頃だとは思う。」

因みにFD星人が拷問の様な罰の様な目に遭っているのは、火野を根城まで来させてしまった奴のストーカー行為が原因だ。

「そもそも、火野を此方側に取り込む事自体は決定事項ではあったが、まだ手段は保留中だったはずだ。其れをフリーダム星人が余計な事をした御陰で計画を新しく練り直さねばならなくなってしまった。」

「あ、いえそういうことではなく」

Mが僕の言葉を否定する。怪訝な顔を僕がすると、Mは話を続ける。

「あれだけ何度も副会長サンから折檻を受けているのデスから、もう新たな世界、ミーと同類の世界に覚醒してもおかしくないでショウ?」

其処か。天地逆様に見える訳だからFD星人には別世界が見えているとは思うが。

「性癖はそういうものでも無いだろう。」

僕がそう言うとMは露骨に落胆した顔を見せる。此奴は自分を痛めつけるサディストだけでなく、同類のマゾヒストも周りに求めているとは。

「兎も角、副会長は己の職務を全うすればする程、火野から恐れられていくと云うジレンマを抱えているのか。」

「あれで副会長サンは寂しがりデスからね。ほら、火野サンの反応みて肩を落としてマスよ」

Mがそう言うのが聞こえたらしい、僕達の方を振り向いた副会長が凄い形相で睨み付けてきた。そうすると僕の隣に座るMが興奮するのだから手に負えん。此奴、遂に睨まれただけでもよくなったようだ。加えて、あわよくば其れを理由に折檻されることも狙っている。救い様のないマゾヒストめ。

Mのその思惑を知ってか知らずか、副会長は直ぐに顔を背けてMを睨み付けるのを止めた。最早扱いに慣れているな。

しかしこれでは話が進まん。

「おいナンシー。君は火野の傍についてやれ。」

高く速くブランコを漕いでいたナンシーは前に出た勢いで跳躍…

「それは止めろ。」

しそうだったナンシーを制止する。ナンシーは口を尖らせて文句を言いたそうだったが、取り敢えずは普通に降りた。そして火野の隣にナンシーが座ると、あからさまに火野の震えが治まる。

「どうして私は怖がるのに、あの子だと平気なの…?」

「日頃の行いだな。」

だからそう此方を睨むな。それが火野を怯えさせる原因だぞ。


※※※

「死ぬかと思った…」

二つあるベンチの内の一つに横になるFD星人がそんな事を呻いた。僕としては何故まだ此奴が生きているのかの方が謎だ。

一定時間の懲罰時間を超えてFD星人が解放された頃合いになって漸く、話が進み始める。

「それで、続けていいかしら?」

前屈みで目線を下げ、少し下手に出る副会長がベンチに座る火野に声を掛ける。

「はい! 大丈夫です、先輩!」

「私達同い年なんだけど……敬語じゃなくていいのよ?」

「いいえ、滅相もございません!」

「もう諦めて本題に入れよ…」

衰弱し切ったFD星人の精一杯の突っ込みに副会長は一旦眉をひそめつつも、一つ咳払いをして話を戻した。

「そうね。では、火野さん」

「はい!」

「私達があなたに接触したのは、実際は接触されたのだけれど、その理由は一つ。あなたに私達の組織に入ってもらいたいからです」

「入ります! 入りますから、何にもしないでください!」

即答だった。考え込んだりするだろうと僕達は読んでいて如何に説得するかを何日もかけて考えていたのだが、寧ろ僕達が呆気に取られた。

「やったぁー!」

「よかったデスね、お嬢!」

「い、いいの? それより、私何もしようとしてないのだけれど」

それぞれがそれぞれの反応を見せる中、寝そべって休むFD星人も忠告として

「即答はやめとけ…」

と呟く。

「いや、余計な勧誘方法を考えずに済んで、僕としては構わんよ。」

多少強引だった様な、強制した様な気もせんではないが、本人が入ると言っているのだから止める理由はない。僕は自分の鞄から用紙を一枚取り出して、副会長に手を向ける。

「何よ?」

「筆記具。出来れば消える恐れのない物がいい。」

流石副会長。何時でも如何なる時でも直ぐに筆記具を出せるよう準備があった。ペンを受け取って僕は用紙と共に火野に差し出す。

「さて。公になっていない組織とはいえ所属者を増やす以上、生徒会にその旨を示さねばならない。当然本人の意思に基づいて。よって、ここに一筆願おう。」

「待って」

受け取る前に火野が声を上げる。

「アンタもまだ信用してないから」

僕に対してははっきりとした口調で断る火野。副会長との扱いの差を感じる。いや副会長の扱いが良いとは全く思わんが。

「っつうか、アンタもってなんだよ、俺達もかよ!」

「ストーカーとマゾヒストも信用には値しないだろう。」

「ミーもデスか!」

「つまり私は信用されているのね」

「というより、恐怖の対象なんじゃね?」

足に振り降ろされた副会長の手刀を、FD星人はすんでの所で回避して、其の侭立ち上がった。

「危ねぇな、おい!」

後退りするFD星人に副会長は舌打ちする。その一挙手一投足が火野を怯えさせている事に副会長はいい加減気付いた方がいい。

「まぁまぁ、持って帰ってからでもいいよ」

差し出した用紙はナンシーが受け取って、それをナンシーが火野に差し出す。するとそれを火野は躊躇いなく受け取って

「ううん、めんどくさいし、今書いちゃう」

ナンシーからは受け取るのか。副会長と睨み合っていたFD星人がここで一言。

「なんだ、この信頼の差!」


※※※

公園を後にした僕達は歩道を歩いていく。

「ストーカーとかじゃねぇからな、俺は! ほらあれだ、一途なんだよ!」

「そんなこと言ったら、ミーだって確かに少し特殊な性癖かもしれマセんが、それよりもまず女性を第一に考えていマスから!」

「そんな一辺にわめきたてないでよ!」

火野の信頼を得ようと躍起になる二人にうんざりした様に火野は叫ぶ。

「待って、じゃあ会長がストーカーしたのって誰だったのよ」

「んとね、ほら映研の一年の子で、」

「オイコラ、ナンシー!なに勝手に人のプライベート暴露してんだ!」

「だって会長、わかりやすいだもん」

前を歩く四人が騒ぐのを僕と副会長は後ろから眺めて歩く。

「私もあれに加わった方がいいのかしら……その方が火野さんの誤解を解ける…?」

「いや逆効果だ。止めとけ。」

遠心力を伴った副会長の手刀を僕は回避。副会長はまた舌打ちをする。その手癖がそもそもの問題だろうに。

「あれぐらいでよかったかしら」

不意に副会長の声色が変わった。僕は彼女の顔を一瞥する。

「問題ない。寧ろあれ以上火野に話せる事もないだろう。」

そう答えても副会長の顔色は余り晴れなかった。仕方ないので更に僕は続ける。

「仮に火野が入るのを絞ったとしても、現状が続け映研そのものが廃部に追い込まれる事も考えられる、と告げればほぼ間違いなく入っただろう。映研の廃部の可能性を火野に告げなかった事を悔やんでいるなら」

頭を叩かれて僕は喋るのを止める。先よりもかなり弱く副会長は僕の側頭部に手刀を銜えていた。

「そっちじゃないわ」

しらばっくれる子供をやんわりと叱る様に副会長は告げた。間を空けて僕は言う。

「片方は知られたら意味が無い事、もう片方は知られてはいけない事だ。仕方あるまい。」

「片方は騙している、もう片方は隠している、の間違いでしょう」

「既に強制していると云うのに今更騙すも何もないだろうに。」

今度は避けられず、脳天に叩き落された手刀は先の倍の威力だった。

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