それは呪い……
「あの塚には、かつて塚への生贄となった人がとり憑いています。
自分のように生贄として捧げられた人がいると、捧げた人を恨むんです。
それで、笹井さんが心配されまして。
犯人の人が祟り殺されそうになっていないかと」
市田の顔色はさらに悪くなる。
「もし、誰か市田さんの周りの方でお心当たりのある方がいらっしゃいましたら、笹井の方にご連絡ください」
そう言ったあとで晶生は、
「あ、笹井の連絡先ってわかりませんよね?
では、この駒井刑事の方に……」
と晶生が言いかけたところで、何故か、鳴海が立候補した。
「ぜひ、私のほうにご連絡ください」
と市田に言いながら、鳴海は連絡先を渡している。
この連絡係を請け負えば、晶生とまた話せると思ってのことだった。
「あの」
迷い風な顔をしながらも市田は晶生に訊いていた。
「例えば、それ。
どんな風に祟り殺されるんですか?」
「それはまず、小さな呪いからはじまります――」
晶生はあの何処を見ているのかわからない目で市田を見つめる。
神秘的な晶生の佇まいに、市田はすっかり飲まれているようだった。
「歩いていて、椅子の脚に足をひっかけたり。
ちょっとコーヒーをこぼしたり。
コートの端がなにかに引っかかって、辺りの物を薙ぎ倒したり。
そういう小さなことからはじまり、徐々に命の危険にさらされます」
いや、コーヒーこぼしたりとかで、どうやってっ!?
うっかりヤクザに向かってこぼすとかっ?
と駒井は思っていたが。
市田は神妙な顔で聞いていて、晶生も鳴海も真剣に彼を見つめている。
慌てて駒井も精一杯、真面目な顔を作ってみた。
「市田さん、思い当たる節はありませんか?」
いつでも誰でもあると思いますよ、うっかり探偵さん……、
と堀田たちに聞いた名で、心の中で呼びかける。
だが、市田は晶生の雰囲気に飲まれたままだったので、どれもこれも思い当たり、ゾッとしているようだった。
……ていうか、この人が犯人なんですか? と駒井は思っていたが。
晶生は単にカマをかけてみているだけだった。
勘のいい駒井が怪しいと睨んだ人物だ。
犯人じゃなくとも、なにかを知っている可能性はある。
そう思っていたからだ。
「……なにかありませんでしたか?
大切なものを無くしたりとか」
晶生は少しずつ言い方を変えていって、当たりを狙っているようだった。
俯いた市田が、ついに小さく呟いた。
「そういえば先週、大事な部品をひとつ無くしました……」
……先週だったら全然関係ないですよ。
事件起こったの、この間なんで、と駒井は思っていたが。
「いや、違うか」
と彼は遠くを見るような目をした。
「大切ななにかと言うのはきっと――」
そこで市田は黙り込む。
「市田さん」
と晶生が天使のような顔で話しかけた。
「なにかご存知なことがあるのでしたら、お話ください。
話すことで、楽になれるかもしれませんよ」
中身は天使というより、悪魔っぽいようなのだが。
晶生は救いの女神のように市田に向かい、微笑みかけている――。
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