あまりに自然すぎて……


 バス停から駒井は、個人的に訊いていた番号に電話をかけてみた。


 市田いちだという若い男だ。


 あの殺されていた男の友人の一人なのだが、彼だけが妙に気になったのだ。


 須藤晶生たちと同じ感じに。


 ……警察が職場に押しかけたら、職場の人たちに不審がられるだろうな。


 まあ、事件のことで聞きたいことがある、というだけなら、友人が殺されたわけだし、おかしくないのだが。


 僕が勝手に彼を疑っているだけだから。


 そう思いながらも、ちょっと出て来られないか、と中には入らず、電話で告げた。


 晶生を連れているからというのもある。


 美人とか可愛いとかいう言葉では言い表せないこの女子高生を連れて店内に入っていったら、悪目立ちしそうだ。


 ……せめて、着替えてきてもらうべきだったな、と今更ながらに思う。


 長谷川沐生さんとかなら、さっと服を買ってあげたりするんだろうけど、刑事なんて薄給だし。


 そもそも服買ってあげましょうとかスマートに言えない。


 駒井は、沐生の言動を彼が演じたドラマの役とか、漠然とした芸能人のイメージにのせて想像していてた。


 実際の沐生は、ただの偏屈な朴念仁ぼくねんじんなので。

 そういうことをしそうなのは、堺か、遠藤の方なのだが。


 まあ、駒井は遠藤を知らないし。


 遠藤が今の状態で、晶生に服を買ってやるのは困難なのだが――。




 ちょうど仕事が終わったところだと出てきてくれた市田は極々普通の好青年だった。


 最初に見たときと同じだ。


 だが、やはり、なにかが自分には引っかかる、と駒井は思う。


 長く刑事をやっているわけでもないのに、刑事の勘だとかいうのはおこがましいのだが……。


「ちょっぴり挙動不審ですね」


 市田を見ながら、ぼそりと晶生が小声で言った。


 しかし、それは自分のように、勘により感じたものではないだろう。


 ほんとうに市田は挙動不審だった。


 それはそうだ。

 刑事に呼ばれて出てきてみたら。


 今どきあまり見ない感じの透明感ある美少女が制服姿で待っていたのだから。


「あ、あのー、この方は?」


 チラチラと晶生を見ながら、市田は訊いてくる。


「あのとき、事件現場にいた方なんですが。

 ご一緒に話をうかがってもよろしいでしょうか」


 はい、と言いながら、市田はちょっと不思議そうだった。


 彼は、現場にいた少女と自分とをひとまとめに事情聴取したい、と受け取ったようだった。


 別々に訊けばいいのにと思ったのだろう。


 いや、彼女は僕と一緒で、君から話を訊く方なんだけどね、と思いながら、駒井は市田を連れて、近くの喫茶店に向かった。




 喫茶店の扉を押し開け、カランコロンという音を聞きながら、駒井は、なんだかちょっと誇らしい気持ちになった。


 晶生を連れているからだ。


「もう一度、被害者の方との関係をお聞かせ願いますか?」


 席に座るなり、駒井は言った。


「え、はい」

と戸惑い気味に市田は言う。


 なんでもう一度、と彼は思ったことだろう。


 そう、別にそんなこと聞かなくてもいいのだが。


 晶生が彼を見てみたいというから、来てもらっただけなので。


 彼が一通りの説明をしている間、晶生は何処を見ているのかわからない目で、市田を眺めていた。


 えーと。

 他に、なにを訊こうかな、と思ったとき、


「大学からのご友人ということですが。

 サークルとかが一緒だったんですか?


 学部は違うみたいですけど」

と横から声がした。


 隣のテーブルに鳴海が座っていた。


 極自然にそこに居て、極自然に質問をするので、そのまま受け流しそうになったが。


 一瞬のち、正気に返る。


 いや、鳴海さんっ。

 今、何処から現れましたっ!?








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