目に見えない戦い
学校帰り、晶生は馴染みの古書店に寄り、本を眺めていた。
古書店は同じ古い本でも、図書館とはまた一味違う匂いがする。
この雰囲気が好きだな。
妙に薄暗いところも――。
好みの本が並んだ棚を中腰になって、じっくり眺める。
おっと、ネットで高値がついてて買えなかった絶版の本が、と思って手にとろうとしたが、ぎゅうぎゅうに本が詰まっていて、抜けなかった。
古くて裂けそうだから、店長さんに言って出してもらおう、と思ったとき、横から伸びた手が上手くそれを出してくれた。
「資料室のファイルもよくこんな感じに詰まってるんですよね~」
と本を手に言ったのは駒井だった。
「どうされたんですか?」
あんまりこんなところには来そうにない、今どきの若者風の駒井に晶生はそう訊く。
いや、よく考えたら、年齢的には自分の方が今どきの若者なのだが。
「ああ、もしや、私を捕まえに?」
と笑って、
そこ、笑うとこですか!?
という顔をされてしまう。
駒井はちょっと咳払いして言った。
「この間はすみませんでした」
どうしたんですか、急に、と思っていると、
「実は鳴海さんに
と言い出す。
……鳴海刑事と知り合いだったのか。
「貴女が此処に居るかもしれないというのも、鳴海刑事に聞いたんです」
晶生は思わず、上を見回す。
店の防犯カメラをハッキングしてるとかっ?
と思ったのだが、此処には、そんな洒落たものはなかった。
つい、制服と鞄の横をパンパン叩いてみたが、怪しいものはついていないようだった。
駒井はそんな挙動不審なこちらに気付かぬように語っている。
「須藤晶生さんがその事件に関わっていることは恐らくない、と言われまして」
駒井は何故か鳴海を尊敬しているらしく、怒られてしょげているようだった。
「でも、あの人がどうも気になるんです、と言ったら、須藤晶生さんは、普通の人とは違う凄い人だからそう感じるんだろうと言われました。
……どう凄いのかはわかりませんが」
――『どうも気になる』かー。
勘がいいな、この人。
「そういえば、長谷川沐生さんもマネージャーの堺さんもおんなじ感じがしたから。
単に芸能界の人のオーラをそう感じただけかもしれませんけどね」
――あの二人も気になるのか。
凄い勘だな、この人。
「実は、事件の関係者で、他にも同じ感じのする人が居たんですけど。
そんなこんなで自信がなくなりました。
……そもそも管轄外の事件ですしね」
まあ、一番の問題はそこですかね、と思いはしたが、今の発言は気になった。
「駒井さん」
は、はいっ、と駒井は緊張したように言ってくる。
なんだかわからないが、崇拝している鳴海が私を褒めたことで、私まで彼の中でありがたいものに格上げされてしまったらしい……、と思いながら、晶生は言った。
「その話、ちょっと気になります。
教えてくれませんか? その気になる関係者がどなたなのか」
「えっ、でも……」
晶生はちょっと笑って言う。
「私も容疑者の一人なんですから、関係者でしょ?
一般人に事件の情報もらしたことにはならないと思いますけど」
「あ、そ、そうですね。
あっ、この本、お詫びにプレゼントしますよ」
と駒井が言ったとき、
「あーっ」
と店の奥からイラついた声が聞こえてきた。
「……なんですか、あれ」
と怯えたように駒井が言う。
「ああ、店長です」
「まったくもうっ。
なに考えてるんだろうなっ」
ドンッと激しい音が聞こえてきた。
「いやー、この店の奥に小窓があるんですけど。
上へ引き上げる小窓なんですが、開けても開けても閉まるらしくて」
「ああ、古い建物ですからねえ」
「いや、霊が閉めてるみたいなんですよね~。
店長は奥も本がいっぱいあるから、天気のいい日は風通して換気したいみたいで、何度も開けるんですよ」
霊VS几帳面な人間の戦いだった。
「晶生っ。
お前んとこのじいさんのお札、効かねえぞっ」
と奥から店長が怒鳴ってくる。
ね、と晶生は駒井を見上げて言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます