お前の無実を証明できる奴はいないのか
堀田と駒井はまだ揉めている。
「こいつが犯人なわけないだろう」
「なんでですか。
見た目で判断するなって、堀田さん、教えてくれたじゃないですかっ」
莫迦やろうっ、と堀田は駒井を怒鳴った。
「お前はまだ、なんにもわかってないっ。
こいつが犯人なら、そんな人に怪しまれるようなこと、するわけがないだろうっ」
ある意味、深い信頼がそこにはあった。
なくてもいい信頼なのだが……。
「ああ、面倒くせえなっ。
誰かお前の無実を証明できる奴はいないのか」
と堀田が晶生を向いた。
そうですねえ、と晶生は考える。
どいつもこいつも大騒ぎしていて、誰も事件に気づいていそうな者はいなかった。
沐生はファンの人にとっ捕まっていたし。
ああでもそうか――。
「ちょっと帰って訊いてみます」
「そうか。
堺たちに確認してみろ」
と堀田は言ったが晶生が確認しようと思っているのは、堺たちではなかった。
やれやれ。
夕方には帰るはずが……。
妙なところで時間をとってしまったし。
堺も沐生も、
「あ、ごめーん。
このあと、仕事だわ。
まあ、大丈夫でしょ」
と帰ってしまって居なかったので、署からバスで帰る羽目になってしまった。
薄情な大人たちだ……。
真田と凛は残ると言ってくれたのだが、明らかに無関係な未成年なので、警察に返されていた。
まあ、あの刑事さんが言ってるだけなんで、特に問題はないと思うけど。
でも――
あの塚、気になるな……。
そんなことを考えながら、晶生は自室の机で勉強していたが。
ずっと縁側の向こうから聞こえていた虫の音が一瞬、聞こえなくなった。
ほんとうに一瞬で、すぐに元に戻ったのだが――。
「ねえ」
と晶生は振り返らないまま、呼びかけてみる。
「昼間の事件の犯人、知ってる?」
「いや」
と言う声がすぐ近くでした。
……音もさせずに入ってきたな。
霊のときより神出鬼没だ。
タナカイチロウが背後にいるようだった。
「今日は仕事?
来てなかったの?」
「付いて行っていたが。
お前が事件に遭遇するまで、なにも気づかなかったな」
お前しか見てなかったから――
とタナカイチロウは言う。
……役に立たない監視カメラだな。
「事件のことは知らないが。
そういえば、この間、遠藤がすごい悲鳴を上げていたぞ」
「殺されたとか?」
と晶生は言って、
死んでるだろう、最初から、と言われてしまう。
「なんらかの理由により、魂が消滅したのかと――」
「なにかにより、激しいショックを受けたようだった」
そうタナカ イチロウは言っていた。
「晶生ー、スイカ食べるー?」
ふいに母親の声が居間の方からして、タナカ イチロウの気配は消えていた。
事件に関しての情報をつかむどころか、余計な心配事が増えただけだったな。
晶生はペンを投げて立ち上がった。
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