間違ってはいないな……



 みんなが記念撮影などしている中、晶生はダムと反対側。


 山の方に分け入っていく道がなんだ気になった。


 なんだろう。

 こっちになにかあるな……。


「ちょっと真田くんっ。

 ここから鳥居とダム、撮ってっ。


 こっちからの方が奇麗でしょ?

 いつかなにかに使うから、その立派なカメラで撮ってよっ」

と堺が真田に言って、


「いつかなにかにって、いつなんですかっ?」

と言われていたが、素直な真田は堺の言う通りにダムを撮っていた。


 凛は物思いに耽りながら、ダムを見ていて、沐生は静かなファンにとっ捕まっている。


 騒ぐファンなら、堺も急いで連れて逃げたのだろうが。


 ひっそり話しかけてきて、ちょっとだけサインが欲しいと頼まれたようだった。


 そんなわけで、ひとり暇な晶生はその怪しい茂みに向かい、歩いていってしまった。




 後ろは観光客で騒がしいのに、ちょっと道を入ると、鬱蒼とした木々の影に入るせいか、しんとしているように感じる。


 その辺の草が他より少ない。

 という程度にしか道でない、細い獣道があった。


 ――この先、なにがあるんだろう?

 田舎の方だと山の中にお墓とかあったりするみたいだけど。


 あまり奥だとクマでも出そうなので行かなかったのだが、そこから少し入ったところにそれはあった。


 細長い石でできた塚のようなモノ。


 あまりよくないモノだと一目見てわかる。


 塚の後ろが淀んでよく見えないかったからだ。


 悪いモノは、悪いモノを呼ぶ――。


 だから、私みたいな人間はここに呼ばれるんだな、と晶生が思ったとき、


 きゃああああああっ、と背後で悲鳴が上がった。


 えっ? なに?

と振り返ると、女子大生のような女の子がこちらを指差していた。


「人殺しーっ」


 ……えっ? 誰が?


 っていうか、人殺しって……?

と思いながら、もう一度、見ると、塚の後ろ、淀みすぎて自分にはよく見えない場所に男の死体が転がっていた。




 警察署の廊下を歩いていると、はははは、と笑いながら、廊下に出てくる堀田の姿が見えた。


 晶生に気づき、

「おう、どうした。

 来たのか」

と軽い口調で訊いてくる。


 はあ、と晶生が曖昧な返事をすると、堀田は、ちょっと眉をひそめて言った。


「なにしに来たんだ?

 どうせまた、なにかの事件に首突っ込んだんだろ」


「いや、連行されてきたんです」


「……誰に?」


「知らない刑事さんに」


「なんで?」


「……殺人罪でですかね?」

と晶生は首を捻った。


「いや、なんでだ」

と言った晶生に、追いついてきた若い刑事が言う。


「堀田さん、僕は見たんですよっ」

駒井こまい、お前、今日、休暇中だろ」


 そう。

 この駒井刑事は休暇で、家族を連れてあのダムに来ていたのだ。


 ご両親が鳥居を拝みに行きたいというので、連れていってあげたらしい。


 親孝行ないい青年だが――。


「彼女は殺害現場にいて、第一発見者の女性に、人殺しっ、と叫ばれていたんですよ」


「待て」

と堀田は片手を上げ、勢いに乗ってしゃべろうとする駒井を制した。


「第一発見者の女性?

 須藤晶生が先に犯行現場にいたのなら、こいつが第一発見者だろうが」


「でも、この人、目の前にある死体に気づかなかったっていうんですよ。

 そんなことってありますか?


 目が悪くても見えるでしょう? 普通」


 だから、あの塚の歪みのせいで見えなかったんですってば、と晶生は思う。


 助けてください、と堀田を見つめてみたが、


 また、ややこしい事情がありそうだな。

 そんな事件持ち込んでくるなよ、という目で見つめ返されてしまった。


「まあ、この人が犯人なら、その第一発見者の人が、第一発見者で間違いないですけどね」

と駒井は言う。


「地元の警察も、簡単に話聞いて、この人、解放しちゃったんですけど。

 僕はどうも引っかかって。


 それで話を聞いてたら、堀田さんの知り合いだって言うから、連れて来ちゃったんですよ」


「いや、連れて戻れ」

と堀田は言う。


「地元の警察がすぐに解放したってことは、特に怪しいところはなかったんだろ?

 たまたまそこにいただけで」


「でも、この人、おかしいですよ。

 死体がそこにあるって聞いても、平然としてるんですよ?」


 だって、現実感がなくて~、と女子高生らしい言い訳を女子高生らしい小芝居でするべきだ、とわかってはいたのだが。


 まだ、あの塚が心に引っ掛かっていたし。

 堀田が居たので、まあいいか、とたかを括ってしまっていた。






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