何処へ向かってってるのよ……



 三時間という長い特番の間で何度か中継が入るようだったが。


 なにも霊現象が起きなかったらどうするつもりなんだろうな、と思いながら、晶生は忙しげなスタッフたちを眺めていた。


 堺に訊いてみたが、

「大丈夫大丈夫。

 なんでも霊現象にしちゃうから」

と腕組みして笑っている。


 まあ確かに、その手の番組では、いろいろこじつけて怖がっているような節があるからな。


 などと考えている間に、一度目の中継が入った。


 怪奇現象が起こる呪われたスナックの話を笹井はしている。


 実際、いろんな霊がいるので、今までも、そこそこ不思議な現象があったらしく、ママたちはそれらについて語っていた。


 そんな撮影風景を眺めながら、堺は満足そうに頷いている。


「やっぱり沐生がいるだけで、画面が締まるわね」


 なんだかんだ普段は言っているが、やはり、自分の担当しているタレント。


 そんな沐生が自慢ではあるようだった。


「……おにいちゃん、立ってるだけですけどね」


 笹井がずっとママたちの話に相槌を打ったり、深く頷いたりしてくれているので、沐生はほんとうに横に立っているだけだった。


「あの綺麗な顔でママたちを見つめているだけで、映画のワンシーンのようよね」


 ほんと得な男ね、と堺は言うが。


 いや、そんな風に絵になるのは、一応、中身と経験が伴っているからではないかと思うのだが……。


 口に出して言ったら、

「まあ、なにそれ、のろけっ?」

とキレられそうなので、黙っていた。


 笹井の口から何度も出る『呪われたスナック』という言葉に、晶生は呟く。


「まあ、実際のところ、この程度で呪われているというのなら、大抵の店は呪われてますけどね」


 そこで、笹井が予定通り、右端から二番目の赤い座面のスツールに手をかけ言った。


「そして、これが呪われた椅子です」


「椅子も呪われるの?

 何処まで呪われるの?」

と堺が苦笑いして呟いている。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る