中継 その一


「何度かこちらに中継が入りますので」

と言うスタッフの説明を離れた位置で晶生は堺と聞いていた。


 堺は笹井たちと打ち合わせている沐生を見ながら、

「霊や犯人が出ても出なくても。

 面白いものは見られそうね。


 沐生がこういう番組に出るの、あんまりないから視聴者は喜ぶものね」

と言う。


「……そうですね。

 こういうところ、霊が多いですからね。


 なにかが起こりそうで、違う意味で怖いですよね。

 おにいちゃんが居ると……。


 さっきから、おにいちゃん、トイレの入り口の方を見ては、こっち見るんですよ。


 あの女の人が生きてるかどうかわからないんでしょうね」


 そう呟きながら、晶生は、トイレの入り口に、ぼうっと立っている女を見る。


「生きてるって言ってやったら?

 挨拶でもしに行ったら、面白いわよ。


 スタッフたちが震え上がるわ」


 壁に背を預けて立つ堺は、そんな人の悪いことを言い、笑っている。


 晶生は店内を見回し、呟いた。


「何体かいるみたいなので。

 話の通じる霊がいたら、此処で頼んでもよかったですね」


「何処の霊に、他の霊のフリしてくださいって言うのよ……。

 そんなの聞いてくれるの、あの物好きの篠塚くらいよ」


 ああ、お医者さんごっこは私が付き合ってあげるから、あんたやらなくていいわよ、と堺は素っ気ない口調でだが、言ってくれた。


 なんだかんだで優しいなと思って、晶生は堺の方を見て、ちょっと笑ったが、堺はこちらを見なかった。


「霊がどの程度、他人を装えるものかわからないんですけど。

 まあ、映りははないだろうから、ぼんやりなにかが映る感じを醸し出してくれればいいだけなんですけどね」


「そんな小難しいこと、あの男にできるの?」


「さあ?

 まあ、基本、笹井さんの演技力次第ですかね?


 でも、そこは問題ないんじゃないですか?」


 あんなに霊が見えてないのに売れっ子霊能者をやっていられるくらいの人物だ。


 きっと上手くやってくれるに違いない。


 頼みましたよ、笹井さん、と晶生が見ると、


 頑張りますっ!

というように笹井はこちらを見て頷いてくる。


 ……いや、目で合図しちゃ駄目。


 まあ、一応、サングラスしてるし。


 なんか不思議な力でなにかと交信している、くらいにスタッフは思ってくれているかもしれないが……。


 ……余計、不安になっちゃったな、と思っているうちに、最初の中継が入ることになった。





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