私が弟子です


 堺は壁際から、店内に戻ってきてカウンターのところで笹井たちと話しはじめる晶生を見ていた。


 若いカメラマンが晶生にカメラを向けて見ながら、


「綺麗な子ですね」

と呟く。


「綺麗でも上手く映像には乗らない子もいるけど。

 いい感じに映るし。


 実物よりちょっと憂いがある感じに見えるけど」


「うちの元子役モデルの子よ」

と堺は流す。


「へー、また出てくればいいのに」

と笑うカメラマンの側に飾ってあったからの洋酒の黒い瓶を堺はつかむ。


「……もったいないわよ」

と呟きながら、何度もその大きな酒瓶を手に打ち付けていた。


「堺さん、怖いんですけど……」

とそのカメラマンは苦笑いしていた。


 晶生をまたタレントにするとか、もったいない、と思いながら、堺はドン、と酒瓶を元の位置に戻して、晶生たちのところに行った。


「晶生。

 一体、なにをするつもりなのよ」


 晶生がこちらを向いて笑って言う。


「とある人に、ある霊の役を頼んだんですよ。

 お医者さんごっこさせてあげる条件で」

と言ったあとで、


「ああ、おかしな意味のお医者さんごっこじゃなくてですよ」

と付け足していた。


 ……悪巧みしてるときの顔が一番可愛いとかどうよ?

と思うが、そんな晶生が好きだった。


「お医者さんごっこってことは、まさか、あれ?

 まだ成仏してなかったの?」


 晶生が言っているのは、たぶん、例の医者の卵の篠塚だ。


 まだ成仏できていなかったらしい。


 凛には、そのことは言っていないようだった。


「人間の役なら人間にやってもらうんですが。

 必要なのは、霊の役なので、霊にやってもらおうと思って」

と言って、晶生は笑っていた。


 ADの女の子に話しかけられ、晶生は愛想よく、

「私、笹井さんの弟子です」

と適当な自己紹介をしていた。


 ひっ、とその言葉に、笹井が縮み上がる。


「や、やめてください、晶生さん。

 恐れ多いですっ」

と訴えはじめ、ADの子を混乱におとしいれていた。





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