何故、此処に……


 晶生が沐生の追求から逃げるように外に出ると、飲み物を手に白いワゴン車から出てきた女がいた。


日向ひなた

 なにしてんの?」


「なにしてんのって、私、『怪奇現象を追え!』にも出てたじゃん」


 そういえば、そうだったな……と思っていると、

「いや、むしろ、あんたが何故此処にでしょうが」

とごもっともなことを言われてしまう。


 だが、すぐに、嘘嘘、と日向は紙コップの炭酸を飲みながら、手を振った。


「笹井さんから訊いてる。

 これ、なんかあんたの入れ知恵の企画なんだって?


 出してよ、ぜひ、ホンモノの霊。


 今後、何度もこのVTRが使われるようにさ」


 日向のこういう野心を隠さないところは嫌いじゃないな、と思っていると、日向が言ってきた。


「いや、実は今回、ゲスト結構、入れ替わったんだけどね。

 私は残れたのよ。


 いいリアクションするからじゃない?」


 いや、あんた、この間、しらっとした顔抜かれてたけど、と晶生が思ったとき、


「そうですよね。

 日向さん、いいリアクションしますもんね~」

とダンボールを抱えた若い男のスタッフが笑って通り過ぎていく。


「ほらね。

 ありがとう~っ」

と相変わらず露出の多い服の日向は、そのスタッフに投げキッスをしていた。


 日向のリアクションを褒めるそのスタッフは日向のファンのようだった。


「霊が居ようが居まいが、私には見えないし。

 指示された通りに振る舞うだけだから。


 私の名演技見ててよ」

と言って、肩を叩き、日向は先に入って行ってしまう。


「坂本日向か」


 スタッフたちも消えたあと、塀の辺りからタナカ イチロウの声がした。


「貴方も日向のファンなの?」

とそちらを見ないようにして晶生は問う。


「いや。

 だが、仕事場にも食堂にもグラビア雑誌が放ってあるから」


 あの食堂か、と思ったとき、

「例の奴はすでに捕獲してある」

とイチロウは言ってきた。


「ありがとう」

と言った晶生は振り返らずに、日向たちのあとを追って、スナックの中に入っていった。




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