別に囮になるつもりはなかったんですが……3


「熱狂的なファンなんだ」

と鳴海は冷めた表情のまま語ってくる。


「今もまだ昔の写真を部屋中に飾るほどの」


 それは私が小学生のときのでしょうか?


 それはファンというよりヤバイ人では……と晶生はすっかり大人になっている鳴海を見る。


「と、ところで鳴海刑事。

 今、私を突き飛ばした人は誰なんですか?」


「誰だろうな」


「……何処に行きました?」


「見失ったな」


 役立たずな、刑事だな~と思いながら、

「そうですか……」

と晶生が呟くように言うと、


「いや、お前をひとりにしておくと、物騒かなと思って」

と鳴海は言ってくる。


 いやまあ、ありがたいんですが。

 ちょっと犯人を追っていって欲しかったかもですよ……と思っていた。


 だがまあ、タナカ イチロウが追っていったかもしれないと一縷の望みをかけていたのだが。


 鳴海に自宅まで送ってもらったあとで部屋に現れたタナカ イチロウは、

「追ってくわけないだろう。

 物騒だから、お前たちの後をつけていた」

と言ってきた。


 ……こ、この役立たずめ。


「いやいやいやっ。

 私のことは鳴海さんが送って帰ってくれたから大丈夫だったじゃない」

と言ったのだが、タナカ イチロウは、


「莫迦め。

 鳴海と二人きりなんて危ないから見張ってたんじゃないか」

と言ってくる。


「いや、あの人、刑事さんだから」

「でもお前のファンだぞ」


「刑事さんだから」

「でもお前のファンだぞ」

と繰り返すイチロウは、だから、なにをするかわからないじゃないかと主張する。


 いや、そんな凶悪なファン、滅多に居ないから……と思ったとき、イチロウが言ってきた。


「そういえば、お前んとこの社長もお前のファンだよな」


なぎさ

 何処がよ。


 そんなことより、私を突き飛ばしたあの人、トイレの事件の犯人だったんじゃない?


 私が貴方と事件のことで話していたのに気がついて、突き飛ばしたとか。


 鳴海刑事はそのことを知らないから。

 私が事件現場を探っていたから、狙われたんだと思ったみたいだけど」

と言うと、


「そうだな。

 あのときの女だったな」

とイチロウは言ってくる。


 いや、だから捕まえて……。


「まあ、待て。

 あの女がまた現れたことでわかった。


 あいつは現場に舞い戻るタイプの犯人だ。


 ということは……」

と言いかけるイチロウの言葉を引き取るように晶生は言った。


「また接触できる可能性があるってことね」






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