別に囮になるつもりはなかったんですが……4


 その頃、事務所に戻っていた堺を鳴海が訪ねてきていた。


 晶生を送ってこちらまで来たついでに、もう一度話を訊こうと思って寄ったという。


「まあ、晶生が助けていただいたんですか、すみません。

 ……あの子ったら、そんなところでなにをしていたのかしら」

と呟くと、鳴海が、


「なんでも堺さんの無実を証明したかったらしいですよ」

と教えてくれる。


「まあ、可愛いところもあるから、晶生。

 無理はしないで欲しいんだけど」

と話していると、汀から連絡が入り、会議が終わったら、ご挨拶しておきたいので、刑事さんを社長室に通しておけと言う。


 鳴海を社長室に連れていくと、鳴海は、おや? という感じに壁にあるポスターの一枚に目を留めていた。


 小さな晶生と汀が映っているポスターだ。


「このポスター……」


「ああ、それは……」


 社長、学生時代、モデルもやっていたので、と堺が言おうとした瞬間、鳴海が叫んだ。


「このポスター、うちにない!」


 スナイパーのような目でポスターを見ている鳴海の視線は、子どもの晶生を向いていた。


「しょ、少々お待ちください」

と堺が笑顔のまま後ずさり、社長室から出たとき、ちょうど沐生が事務所に戻ってきた。


 堺は、その腕をつかみ、


「沐生っ。

 ヤバイッ。

 あいつ、ヤバイッ」

と叫ぶ。


「誰がだ。

 お前以上にヤバイ奴が居るのか……」


 そう沐生には言われてしまったが。




 堺がお茶を持って戻り、鳴海がずっと晶生のファンだったことを聞き出したころ、ちょうど汀が戻ってきた。


 堺は、

「あ、では、ちょっとお茶でも。

 鳴海さんもおかわりいかがですか?」

と言って、席を立つ。


 ちょうど、

「失礼しま……」

とバイトの女の子がお茶を持って入ってこようとしたので、堺はキッと目で制した。


 ドアの方を向いて座っている汀には見えていただろうが。


 堺は視線で彼女を押し戻した。





 沐生はまだ事務所に居た。


 美乃よしのと話していたようだ。


 堺は沐生に、鳴海が晶生のファンだという話をする。


「いや~、よかったわ~」

と笑うと、よかったか……? という目で沐生が見てくる。


「だって、イケメンで頼りになる刑事さんとか、晶生が惚れたら困るじゃないの。


 ロリコンのヤバイ奴でよかったー」


「……お前は違うのか」

と言われながらも、堺は機嫌よくお茶を手に戻った。






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