別に囮になるつもりはなかったんですが……2


「何故、此処に、鳴海刑事。

 ああ……ありがとうございます」

と思わず晶生は言って、


「順番、逆だろう」

と言われてしまう。


「すみません。

 ありがとうございました」

と晶生はもう一度、礼を言った。


「でも、あまりにタイミングよく現れられたので、つけられてたのかな、とか一瞬、疑ってしまいまして」


 言っては悪いかな、と思いつつ、そう言ったが。


「ああ、つけてたんだ」

とあっさり鳴海は言ってくる。


「つけてたんだ、お前のあとを。

 学校終わって何処に行くのかと思ってたら。

 現場に舞い戻るから犯人だったのかと思ったぞ」


 いや、犯人以外も舞い戻りますよね、警察とか……。


「あのー、私は事件にはなにも関係ありませんからね」


 夕日の眩しさにまたたきながら念押しした晶生に、鳴海は、

「じゃあ、何故、首を突っ込む。

 今みたいにおとりにでもなるつもりだったのか。


 お前は首を突っ込みすぎだ、うっかり探偵」

と厳しい調子で言ってくる。


 その名で呼ぶの、やめてください……。


 っていうか、なんで知ってるんですか。

 私の身辺調査でもしてたんですか、と思っている間、鳴海はなにか考えているかのように俯き、黙っていた。


 太陽を背にしている彼はスタイルがいいので、シルエットも美しい。


 が、口を開いた鳴海は衝撃的なことを言ってきた。


「俺は今日は非番だったんで、個人的にお前をつけていたんだ」


「……何故です?」

と訊きながら、晶生は警戒していた。


 実は鳴海刑事は、あの九年前の事件と関係しているのかもと思ったからだ。


 警察内部にも敵がいないとも限らない、と身を引き締めたとき、鳴海はこちらを見て言った。


「ファンだからだ」


 沈黙が訪れた。


 鳴海はまっすぐ晶生を見ている。


「俺は昔、姉貴に連れられ、お前の出ていたショーを観に行ったことがある。

 あのときから、俺はお前のファンだ。


 引退してしまって、とても寂しい思いをしていた。


 あんた、女の子の服好きなの? とか不気味がられながら、お前の出ている雑誌を熱心に見ていたのに。


 今も、緊張で足が震えている。

 警察で初めて会ったときも――。


 子役は崩れるというが、お前は前より美しい。


 あの頃にはなかったうれいがその表情に感じられるからだろうか」


 いや、それは人を殺したからですよ、と思う晶生を見て、鳴海は、まるでさげすんでいるかのような顔で言ってきた。


「ファンなんだ」


 ファン……というのは、どういう意味の言葉だったろうか。


 鳴海のその表情を見ながら、晶生は、しばし、考えていた。






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