ちょっと近づけた感じがしてたんだが


 ちょっと近づけた感じがしてたんだがな。


 真田は晶生を見ながら思っていた。


 前回の事件で、霊が見えるようになったとき。


 少しだけ、晶生の世界に近づけた気がした。


 霊が見える分だけ、晶生は沐生と最初から近い気がするから。


 いっそ、山にこもって霊能力を獲得してくるか……。


 などと考えが蛇行したとき、もう歩き出していた晶生が振り返り言ってきた。


「休み時間終わったよー、真田くんー」





「このハサミ、やっぱり、堺さんが祀ったハサミの可能性も出てきましたね。

 堺さんが買って祀るの忘れちゃっただけなんじゃないんですか?」


 放課後、事務所に寄った晶生がそう言うと、デスクについて仕事をしていた堺がこちらを見て言う。


「なによ。

 私がトボけてただけだっていうの?」


「まあ、確かに切れるようで、抜けてるところもあるからねー」

と堺のデスクの近くで立って珈琲を飲んでいた美乃よしのが言う。


 堺に睨まれ、

「あら、そういうところが可愛いところだって言ってるんじゃない。

 ただ切れ者なだけじゃ可愛くないわよ」

と言った美乃の前のデスクから、


「普段は、キレることの方が多いですもんねー」

と若い男のマネージャー、太田が言って、太田も堺に睨まれていた。


「でもまあ、堺がうっかりって言うのはないと思うわ。

 私も見たもの。


 堺がハサミを捧げて、熱心に祈ってるの」


 ……なにを熱心に祈っていたのか怖いんですが、と晶生は思う。


 なんだか堺のデスクの上にあるハサミが生贄の人間に思えてきた。


「でもまあ、よりわからなくなりましたよね。

 事件に関係ないのなら、誰が何故、なんのために、このハサミを堺さんの鞄に返したのか」


「そうねえ。

 いつのタイミングで返したのかもわからないしね。


 堺にわからないように返したわけでしょ」

と言いかけ、美乃は、おっと、という顔をした。


 そんな言い方をしたら、また自分が怪しまれると思ったからだろう。


 一緒に神社に行った美乃が一番、そっとハサミを鞄に戻しやすい人間だろうから。


 だが、堺は、

「わかったわ、犯人は沐生あらきよ」

と言い出した。


「私が晶生との仲を祈願したことを知って、それを阻止しようと、ハサミを奪って、私に返したのよ。


 私の願いが神様に届く前にっ」


 俺は収録中だったろうが、という顔をソファで台本を読んでいた沐生がしていた。


 堺は名探偵よろしく立ち上がり、沐生を指差して言う。


「そう。

 沐生、あんたが、私と晶生の中を裂こうとしたのよっ」


「逆だろ」

 仕事しろっ、と堺は、後ろから汀に小突かれていた。




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