異界への門でも開きそうだ


「あの妹、きっと旦那のスマホを同じ方法で開けて見る嫁になるわよ」

と拝殿に向かいながら、堺が言う。


「小四らしいですよ」

と苦笑いしながら、晶生あきおは言った。


 夫のスマホをね。


 私なら、沐生あらきのスマホは恐ろしくて開けられないけどな。


 見てはならぬものがそこにありそうで……。


 だが、想像してみた沐生のスマホの画面には、女からのメールとかではなく、異界への入り口のようなものが渦を巻いて映し出されていた。


 まあ、そっちの方が沐生らしいか、と晶生は笑う。


「……なに笑ってんのよ。

 やあねえ、なんか面白くない」


 沐生のことを考えていたと、どんな超能力でかわかったらしい堺が言ってくる。


「お参りしてく?

 そういえば、お供えのハサミ買いそびれたけど」

と今はOL二人連れみたいな参拝客の相手をしている美森を振り返って堺は言う。


 女性たちは御朱印帳を美森に渡していた。


「あれ、あの子が書くのかしら。

 なんのご利益もなさそうだけど」


「違うんじゃないですか?」

と晶生が言ったとき、案の定、美森はそれを持って、拝殿の横の方に回っていた。


 どうやら、そちらに神主が控えている間があるようなので、おじさんに渡しに行ったのだろう。


「ああやって、結構、社務所離れてるわけですよね。

 社務所の中の仕事もいろいろとありますしね。


 気をつけて見とけって言われたら、境内も見てるけど。

 忙しいときは、あんまり見てないですもんね、私も」


「なによ、巫女さんっぽいこと言っちゃって」


 いや、一応、巫女なんですよ、と思いながら、視界の横に来たハサミの山を見て、

「あの鞄の中のハサミで祈ったらどうですか?」

と言ってみた。


「いや……これ、証拠品なんじゃないの?」


 いい加減な探偵ね、と言われる。


 どっちかというと、縁が切れないことを願いながら参拝したあと、晶生は問題のトイレに行ってみた。


「あのときは堺さんたちしか居なかったんですよね、この辺」


「そうなのよ。

 男も静かに気を失ってたから、中に居ることにも、全然気がつかなかったし」


「お正月とかで混み合ってるときならともかく、神社のトイレとかあんまり行かないですもんね。


 この辺りとか、参道にお洒落な店もいっぱいできてるし。


 私なら、ちょっと我慢して、店に入って、注文してから、トイレに行くかな」

となんとなく言ってみたのだが、堺はすぐに鬼の首をとったように、


「じゃあ、やっぱり、あのとき、トイレに行こうって言い出した美乃よしのが犯人ね」

と言い出す。


 あなた方は仲がいいんですか。

 悪いんですか。


 いや、ただ単に、犯人を押し付け合っているだけか。


 そう思いながら、

「……いや、切羽詰ってたら、此処で行きますよ。

 私ならそうするかなって言ってみただけで」

と一応、美乃をかばいながら、日陰になっていて、ひんやりするトイレに入ってみた。


 堺は入り口で待っている。





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