すみません。アレください



「それがよく覚えてないんですよね。

 この間、テレビでやってから、結構お客さん来られようになったので」


 ああ、貴方のことは覚えてますよ、とその巫女さん、松下美森まつした みもりは堺に向かって言った。


「イケメンさんは覚えてます。

 とか、こんな仕事してて言っちゃいけないんですけど」

と美森は照れたように笑ったが、晶生は驚愕していた。


「すごいですね、松下さん。

 よく堺さんが男の人だったわかりましたね?」


「ええ。

 私のイケメンセンサーが働いたので」


「頼もしい人ですね」

と晶生は笑うが、堺は、


「いや~、今の一言で、この神社のご利益が一気に下がった気がするわ~」

と呟いていた。


「でも、マネージャーさん。

 イケメンはこの世の宝ですよ」

と主張し始める美森に、


「どんどん下がってってるわ~」

と堺は言う。


「晶生、あんたの方がマシな巫女さんな気がして来た」


 そう堺が言ったので、美森が、えっと驚く。


「探偵さんで女子高生で、タレントさんで巫女さんなんですか?」


 いや、その中でまともに営業(?)してるの、女子高生、のところだけなんですが……と思いながら、晶生が、


「いや、祖父のところが神社でたまに手伝いを」

と言うと、美森が、


「私もなんです。

 此処、おじさんの神社なんですけど。


 おじさんがお前、コスプレ好きだろうって言って、バイトすることに。

 それから、余計なことペラペラしゃべらず、微笑んでろって言われたんですけど」

と言い出した。


「おじさん、この姪と縁切った方がいいんじゃないかしら……」

と堺は拝殿に積まれたハサミの方を見ながら呟く。


「そうだ。

 あの日はマネージャーさんの前にもイケメンさんが来たんですよ。


 そういえば、そのイケメンさんにハサミを売ってすぐ、マネージャーさんたちが来られたんです」


 その言葉に、堺が眉をひそめた。


「あらでも、私たちが拝殿に行ったとき、もう誰も居なかったわよ」


「そうなんですか?

 ちょうどあのあと電話がかかったので、見てないんですよね」

と美森は言う。


「その前は結構団体さんとかたくさん来たので、これもまたいちいち覚えてなくて」


 晶生は少し考え、

「どんな感じだったんですか? そのイケメン。

 トイレで刺されてた人とは違うんですよね?」

と訊いた。


「違いますね。

 細身な感じのイケメンでしたよ。


 顔はキャップを深くかぶっていたのでちょっと」


「待った」

と堺が止める。


「なんで顔見えなかったのにイケメンってわかったのよ」


「雰囲気がイケメンでした」


 堂々と美森は言い放った。


「いや、堺さんを雰囲気でイケメンだと当てる人ですからね。

 合ってるんじゃないですかね?」

と晶生は言う。


 堺さんの直前にイケメンが来て、堺さんはその人を見ていない、か。


「イケメンが犯人だともったいないですよね」

と堺をマジマジと見て美森が言うので、


「じゃあ、私が犯人にならないよう、しっかりいろいろ思い出しなさいっ」

と堺は美森を脅す。


 美森はイケメンに脅されて嬉しいのか笑っていたが。


 ……イケメンでなければ、濡れ衣でもほっときそうでちょっと怖い、と思う。


「ああそうだ、美森さん」

と晶生が呼びかけると、美森は、待ってました、という顔をした。


「あれですね、探偵さんっ。

『すみません。

 もうひとつだけお訊きしたいことが』とか言って、戻ってくる定番のヤツですねっ」


「いや、それやるの、大抵、犯人になんですけど……」


 犯人になりたいんですか、思いながら、晶生は美森に言った。


「そうじゃなくて、指紋ください」


 は? と言ったあとで、美森は、なんとなく指をかばい、痛そうな顔をする。


「いや……、指本体のじゃなくて、なにかに写した指紋」

と晶生は言った。


「はは、ですよね。

 いや、なんとなく。


 いやー、うちの妹がお父さんが寝てるときに指つかんで、指紋認証でスマホ開けさせてゲームしてるんで、なんとなく」

と言って美森は苦笑いしていた。







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