ちょっとお話、お聞かせください



 神社の階段は古いものらしく、かなり歪んでいた。


 歩幅も妙だ。


 一段ずつ上がるのには間隔が狭すぎるし、一段飛ばしだと広すぎる。


「なんなんでしょうね、この不思議な感じ。

 昔の人、着物着てたからですかね?」


「さあ。

 でも、こういうのってさ。


 いつも違う感じがして、異界につながってる感じがするわよね」

と呟いた堺は振り向き、


「ま、あんたはいつも異界とつながってるけどね」

と言う。


 いや、貴方もじゃないですか、と思っていると、堺はこちらを見て、ふふ、と怪しく笑い、

「おんぶしてあげましょうか」

と言ってきた。


「いやいやいや、大丈夫ですよっ。

 堺さんこそ、大丈夫ですかっ?」


 体育の授業というのは、本気でやるわけでもない自分などには、たいして意味がないような気がしているのだが。


 大人になって、まったく運動しなくなると、強制的にさせられていたあのわずかな運動でも、意味があったんだなと感じるようになると言う。


 もう大人になって久しい堺の方が運動が足りてないんじゃないかと思いながら、石段を上る堺を見つめていた。


 いつもなら、

「あら、マネージャーの体力舐めないでよ」

と言ってくる堺だったが。


 今日は、

「じゃあ、おぶって」

と言い出した。


「あっ、晶生っ。

 なに早足になってんのよっ。


 駆け上がれんじゃないのよ、あんたっ」


 ところで、サバ缶の話はなによーっ、という声が下から追いかけてきた。




 鳥居を潜り、境内に入ると、巫女さんが老夫婦と話しているのが見えた。


 息を切らして上がってきた堺が、

「あ、私が来たときもあの巫女さんだったわ」

と言う。


「常駐の巫女さんなんですかね?」


「あんたんとこ、居るんだか居ないんだかわかんないあんただけだもんね」


「お祭りのときはいっぱい居ますよ。

 バイトさんが」


「ご利益なさそうね」


「いえいえ。

 ああいう方の方が信心深かったりするんですよ。


 まあ……少なくとも私よりは」


 殺人犯の巫女よりは誰だってマシだろう、と思ったとき、老夫婦が笑顔で立ち去り、巫女さんがこちらを向いた。


 晶生は、ぺこりと頭を下げて言う。


「すみません。

 ちょっとお話し訊かせていただけますか?」


「えっ?」


 誰なんだろう、この人。


 警察じゃなさそうだな、制服だし、という顔で、然程、歳は違わなさそうなその巫女さんが見る。


 晶生は少し困って、

「えーと、その……

 た、探偵です」

と言ってみた。


 すると、その巫女さんは、まあ、と驚いた顔をする。


「まあ、探偵さんって本当に居るんですね。

 しかも、女子高生……ですよね?」


 確認するようにそう言われ、はは、と晶生は苦笑いする。


「でも、本当に探偵さんなんですか?」

と問われ、困っていると、巫女さんは申し訳なさそうに、


「あっ、すみません。

 あんまりお綺麗なので、もしかして、なにかの撮影かと――」

と言ってきた。


 その言葉に被せるように、堺が立て板に水とばかりに喋り出す。


「そうなんです。

 この子、うちのタレントで、今度、探偵役をやることになって。


 それで、今、刑事さんたちにも協力していただいてるんですよ。


 私のことは覚えてらっしゃいますか?


 この間の事件をたまたま発見したものなんですけど」


 たまたまを強調しながら堺は言った。


「ああ、あのときの。

 大変でしたね」

と堺が犯人などとは思っていないらしい巫女さんは同情してくれているようだった。


「鳴海刑事の許可もとってあります。

 少しお話を」

と程よく手に入れていた担当刑事の名前も使い、堺は言った。


「ああ、鳴海さん……」

と呟きながら、巫女さんは頬を赤らめる。


 まあ、……イケメンですよね。

 ちょっと目つきが鋭いですが。


 そんなこんなで、巫女さんから、お話が聞けることになった。


 どうやら、探偵のマネージャーとしても、優秀なようだ。






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