二股では飽き足らずに……
「思い出しました。
石塚南央。
サークルの人たちとやったコンパのとき居た人です」
篠塚は、はっきりとそう言った。
「……篠塚さん」
と晶生は低く呼びかける。
「貴方、二股かけた挙げ句にコンパとか?」
と脅すように言ってみたのだが、なんの悪気もなさそうに、篠塚は、
「いやいや、ただの付き合いで行ったんですよ」
と軽く言ってくる。
いやまあ、そうなのかもしれないが、凛が聞いたら、いい気持ちはしないだろう。
凛には伏せておくことにしよう、と晶生は思った。
霊と話せるのも、いいことばかりではない。
こうして、生前、知らないままだった悪事がボロボロ出て来てしまったりするからだ。
渋い顔をしながらも、晶生は篠塚に訊いた。
「で、コンパ行ってどうだったんですか?」
「どうもこうも、居ただけですよ。
人数合わせに呼ばれただけなので。
まあ、何人かには電話番号とか訊かれましたけど」
うーむ。
男前でないとは言わないが。
ちょっとぼんやりした人に見えるんだが。
やはり、将来有望な医大生というだけで、女性には人気なのか、と思いながら、
「で? 番号、教えたんですか?」
と晶生が訊くと、はい、と悪びれもせず、篠塚は頷く。
「石塚南央さんにも?」
「いいえ。
石塚さんには訊かれませんでした。
彼女は、他の人といい雰囲気でしたよ。
なんか、直前に人数足りなくなって、
と言ってくる。
「……あのー。
そんなあちこちから人借りて来なきゃ開催されないコンパなら、もうやめた方がよかったんじゃないですかね?」
と晶生が言っている途中で、あまりこちらの話は聞いていない篠塚は、被せるように言ってきた。
「えーと、確か、
僕の隣りが、石塚さん、その隣りが宮崎さんだったんで、覚えてるんですよ。
ちょっと軽そうな感じの方だったんですけどね、その宮崎さんって。
企業に頼まれて、HP作ったりとかされてる方で。
仕事の話をしてるときだけは、真面目でしたね。
僕も聞いていて、興味深かったです」
石塚南央はうろ覚えなのに、その男のことは覚えているのか。
まあ、自分から女性にアプローチしていくというよりは、向こうから来られたら、拒否しない、というタイプなのかもしれないな、と思って、晶生は聞いていた。
……が。
ん? 今、なにか引っかかったぞ、と思う。
なんだったっけ? と思いながら、篠塚の方を見ていたのだが。
篠塚が見えない堀田たちの目にはその向こうの汀を見つめているように見えていたかもしれない。
だが、汀も自分を見られていないのはわかっているので、寝ているのに、さっと視線から避けてみたりしていた。
なにやってるんだ、と思ったとき、唯一、篠塚の声が聞こえている沐生が溜息をついて言ってきた。
「
この間、店の前で、刺されたとかいう、今、意識不明になってる男だろ」
被害者の名前くらい覚えとけ、と言われた。
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