思い出しました


「あれ? 堀田さん、どうしたんですか?」


 入ってきた堀田たちに晶生がそう訊くと、堀田は渋い顔で言ってきた。


「どうしたんですかじゃねえだろ。

 事件の話を聞きに来たに決まってる」


「いえ、その果物カゴですよ」


 いちいち事件の話を聞くのに手土産持って歩く刑事なんて――


 まあ、居るかもしれないが、少なくとも、堀田はそのようなタイプの人間ではないのに、と思ったのだ。


 堀田は自分の手にあるカゴを見下ろし、

「……用事があって、ちょっと家に寄ったら、持ってけと言われたんだ。

 うっかり、長谷川沐生のとこの社長だと言ったからだろうかな」

と言う。


 そういえば、奥さんと娘さんが沐生の大ファンなんだったっけ、と思いながら、晶生が、

「じゃあ、奥さんと娘さんも一緒にいらっしゃればよかったのに」

と言うと、堀田が、連れて来られるかっ、という顔をする。


「堀田さん、奥さんと娘さんには頭上がらないですもんね」

と林田が笑って言うので、


「じゃあ、私、いよいよ追い詰められたら、奥さんと娘さん連れて逃亡しますよ」

と晶生は笑った。


「堂々としょうもないこと言ってんじゃねえ、ほら」

と堀田は晶生にカゴを渡してくる。


 だが、自分に渡されても困るので、晶生はそれを堺に渡し。


 堺は、一瞬、考えたあとで、寝ている汀の胸の上に置いた。


「俺に渡すなっ。

 どうしろと言うんだっ!」


 くか、飾れよっ、と汀はわめく。


 いやいや、と堺をかばうように、晶生は言った。


「堺さんにしては、気を利かせてましたよ、今。

 お腹に置かなかったですもん」


「……刺されてるからな」

と汀が低く呟く。


 仕方なく、堺はカゴを取ると、ベッドサイドのテーブルの上のものを退け、そこに飾っていた。


「あんた、結婚しなさいよ。

 そしたら、こういうこと、全部やってもらえるから」

と汀に言う。


 だが、汀は、

「嫁もらうのって、小間使いにするためじゃねえだろ」

と言ってきた。


「……意外と立派なこと言いますね、社長」

と晶生が感心して言ったとき、


「どうでもいいから、話を聞かせろ」

と言いながら、堀田が社長のベッドの横に行こうとした。


「あ、そこ、篠塚さんが居ますよ」

と晶生が言うと、堀田はビクッとして、後退する。


「……まだ居たのか」

と呟いていた。


 堀田は、今、篠塚が居ると言った辺りを窺いながら、訊いている。


「おい、石塚南央とどんな接点があったのか思い出したか」


 霊現象なんぞない、と主張することは既に諦めたようだった。


「あー、篠塚さんは、今、汀―― 社長相手にお医者さんゴッコをしていたところだったんで」


 なんでだ……と呟く堀田に、

「そりゃあ、未練を断ち切って成仏するためじゃないですかね?」

と言う。


「成仏させちゃ駄目だろっ」


 なんのために、俺が霊の存在を認めたと思ってんだっ、と堀田は叫んだ。


「堀田さんって、刑事のかがみですよねー」

と晶生はしみじみと言う。


「自分の主義主張を曲げてまで、事件の情報を集めようとするとは」


 堀田は苦々しげに、こちらを見、

「そうだな。

 もう霊は居ると認めたんだ。


 お前の事件に関しても、霊に訊いてもいいんだよな」

と言ってくる。


 何処の霊能者に訊くつもりだ。


 笹井さんは無理だぞ。


 それに……と晶生はおのれの左肩の辺りを振り返り、


「あの事件のことを訊こうにも、関係者の霊、突然居なくなっちゃったので、まあ、またの機会に」

と言った。


 なにが居たんだよっ、と堀田はわめいている。


 そのとき、なにかずっと考えて居た風な篠塚が、ああ、と突然言った。


「思い出しました。

 石塚南央。


 サークルの人たちとやったコンパのとき居た人です」




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