何故、此処に……?
まだ店に居た晶生は、堺からの電話を受けていた。
携帯を取った途端、
『晶生っ、来てっ』
と突然、堺がいきなり叫び出す。
『店の裏で汀が男に刺されたのっ。
たいした傷じゃなさそうだけど。
堀田さんが男を追ってったわ。
それから、あんたを呼べってっ』
「私を呼べって、……誰がです?」
堀田が言ったのか、汀が言ったのかよくわからなかったので、そう冷静に訊き返すと、
『堀田さんっ』
と堺は言ってきた。
声が大きいので、今、堀田を追って出かけた林田にもそれは聞こえたようだった。
「……堀田さん、なんで僕を呼んでくれないんですか」
と嘆き悲しみながらも、林田は出て行った。
そのまま、堀田に電話をしながら、裏へと回ったようだった。
「私、行くわ」
と晶生が立ち上がると、俺も行く、と沐生も立ち上がる。
「じゃあ」
私も、と言いかけた恵利を晶生は手で押さえ、
「働いて」
と言うと、恵利は、ええーっ、と言う顔をしていた。
「凛、真田くん、そこに居て。
堀田さんたちがこっち戻ってくるかもしれないから」
と言って、晶生は沐生と店の裏へと急ぐ。
すると、
「たいした傷じゃないってお前が決めることか、堺ーっ」
とわめく汀の声が聞こえてきた。
これは大丈夫そうだな、と思っているうちに、道に座り込んでいる汀と側に立つ堺の姿が見えてきた。
「晶生を呼べ、晶生をっ」
「今、呼んだわよ。
救急車ももう来るわよ。
うるさいわねっ」
うるさいわねってなんだーっ、と汀が叫ぶ。
「俺、お前をかばって刺されたんだよなーっ?」
と堺に確認させるように言ったあとで、
「ああっ、なんで、晶生はこの場に居なかったんだっ。
晶生が居たら、晶生をかばったのにっ」
と意味不明なことをわめき出す。
「あんた、社長でしょうがっ。
なんで、一社員をかばうのよっ。
あんたが倒れたら、誰が会社を回してくのよっ」
「俺が居なくても、松本が居るだろっ」
松本は、汀より、ずいぶん年上の、やり手の副社長だ。
……あっちが社長みたいだと言われてるの、気にしてたのか、と晶生は苦笑いしながら聞いていた。
「俺よりお前が居ないと困るだろうがっ。
駄目なマネージャーではあるが、人手不足だっ。
枯れ木も山の賑わいだろうがっ。
あと、お前が死んだら、晶生が泣きそうだからなっ」
騒ぎ続ける汀の許に、晶生は溜息をつきながら行った。
「……出血多量で死にますよ、社長」
ちょっと黙って、と晶生が言ったとき、ん? と沐生が言い、晶生も気づいた。
刺されている汀を見下ろしているものが居る。
あの長い髪の女ではない。
生真面目そうな若い男。
観察するように、汀が刺された腹を見下ろしている。
「……篠塚さん」
田所に殺された凛の恋人、
勉強部屋から出なかった男が、何故、此処に、と思いながら、晶生はその霊体を見た。
あの土下座の霊のせいか、波長が合わないのか、堺には見えていないようだ、と思った次の瞬間、気づく。
土下座の霊が、堺の後ろから消えていることに――。
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