つながるモノ

 




 晶生は二階を一通り見て歩いていた。


 長く廃墟であったので、霊現象も過去の残像もいろいろとある。


 どれが新参の霊なのか、よくわからないが、まあ、確かに前回と違う点もあるようだ、と思いながら、前から居る足許を這う霊を見ていたが、耳には、遠藤と堺の話し声が届いていた。


「わかっているのに、耳を澄ましてるわけでもないんでしょうね、あの子は」

と堺が笑う。


 そう。

 遠藤が自分を追い払ったのはわかっていた。


 だから、おとなしく上がってきたのだが。


 この廃墟では声がよく響くので、丸聞こえなんだがな、と今は壁で死角になっている下を見る。


 このままでは盗み聞きになってしまう、と思いながら下りようとしたとき、遠藤が、


「心配するな。

 あの娘の業は深い。


 今更、普通の女にはなれないさ」

と言うのが聞こえてきた。


 さすが霊。


 なにもかもお見通しのようだな、と思う。


 なにかに執着して彷徨う霊には見えていないものもたくさんあるようだが。


 遠藤のように自分が死んでいると自覚があり、冷静に周囲を見渡せる霊は、ある意味、超人的に物が見聞きできる超能力者のようなものだ。


 こういう力を持ったまま生まれ変わる人間が居たら、大変だな、と思いながら、晶生は階段に足をかけた。


「遠藤。

 なにもないんだけど。


 誰か此処で人を殺したりした?」


 とりあえず、そう言いながら。


「……ま、死体のひとつも見つかれば、しばらくは解体されないんだろうがな」

と言った遠藤に、


「じゃあ、此処で死体が見つかったら、犯人は遠藤ってことで」

と言うと、


「私は霊だぞ。

 なにが出来ると言うんだ」

と言い出す。


 いやいや、貴方だったら、たまたま此処に入り込んだ霊の見える浮浪者に囁いて、殺人を犯させるくらい簡単でしょうに、と思いながら、みんながなんとなく気にしているおのれの左肩に晶生は手をやった。


 きっと、沐生も見れば、すぐに気がつく。


 誰も彼もが口には出さないが、お見通しのはずだ。


 ……たぶん、笹井さん以外。


 長い間、自分の後ろに居た霊が、あれからずっと居ない。


 真田の病室に居た看護師の口が、


『起きた……』

と動いたあの瞬間から――。


 誰が?


 なにが?


 真田にその言葉が聞こえたのか確認しようとしたが、タイミングが悪く、できなかった。


 何故、彼女がそう言ったあと、真田はすぐに退院になったのか。


 この世は、いつも、見えないモノで繋がっている――。







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