だから、成仏する気ないんでしょ?

 




「だから、成仏する気ないんでしょ?」

と苦笑いし、晶生は階段を上がっていった。


 その気配が消えたあとで、遠藤がホールに立つ堺に訊いてきた。


「で?

 なにがあった? 堺」


 問われた堺は顔を上げ、

「あんた、晶生を追い払ったの?」

と遠藤に訊く。


 遠藤は階段に腰を下ろしたまま、

「いや、晶生が居たら、話しにくいこともあるだろうと思ってな」


 なにか私に訊きたいことがあって来たんじゃないのか? と言ってくる。


「別に……。

 ちょっと顔を見たくはなったけど」

と言うと、遠藤は、


「その顔で言うな。

 ときめくぞ」

と大真面目な顔で言ってきた。


 この建物に執着しているらしい遠藤は、建物ごと自分の存在が消えるかもしれないというのに、まだそんな軽口を叩いてくる。


 さすが、一度死んだ人間は肝のわり方が違うな、と思っていると、

「まあ、なにを言いたいのかはわかるが」

と遠藤は晶生の消えた二階を見上げていた。


「二階がおかしいって言うのはほんと?

 晶生を追い払うための嘘?」

と堺が訊くと、


「本当だが。

 まあ、晶生は、私がお前と二人きりになるために、言ったことはわかってるだろうがな」

と言ってくる。


「わかっているのに、耳を澄ましてるわけでもないんでしょうね、あの子は」

と堺は笑った。


 肝が据わり過ぎなのは、晶生も遠藤も変わらない。


 だが、生きた人間なのに、むしろ、晶生の方が遠藤よりも周囲に興味がないように思えた。


 だから、自分も遠藤も沐生も、彼女の側に居て落ち着くのだろうか。


「今日の晶生は、やけに後ろを気にしているな」


「そうね……」

と言ったきり、堺がなにも言わないでいると、


「心配するな。

 あの娘の業は深い。


 今更、普通の女にはなれないさ」

と笑う。


 そのうち、晶生が二階から下りてきた。


「遠藤。

 なにもないんだけど。


 誰か此処で人を殺したりした?」

と訊いてくる。


 遠藤は振り返り、

「かもな」

と言っていた。


「ちょうどいい廃墟だからな。


 最近、たまに此処を覗きに来る奴が居る。

 解体業者の下見以外にな」


 そう言い、笑った遠藤は黙り込んだ晶生の顔を見て言った。


「……ま、死体のひとつも見つかれば、しばらくは解体されないんだろうがな」






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