ごめん。忘れてた

 



 ……女の人、何処に? と一瞬、晶生は思ってしまった。


 真田が霊が見えるようになったと頭でわかっていても、実感としてないというか。


 今、一瞬、生きた女が居るのかと思って探してしまった。


 あの看護師たちのように、自分にも見えている霊なら、そんなうっかりミスはしなかったのだが。


「えーと、今、真田くんには見えていて、私には見えてない。

 ってことは、霊?」

と呟くと、真田は、えっ? という顔をする。


「俺に見えてお前に見えないなんてことあるのか?」

と問われ、


「大事なのは、波長だって言ったじゃない」

と晶生は言う。


「実は、生きてる人間なんじゃないの? その女」

と堺が笑った。


「晶生は、生きてる人間の方が見えてなさそう。

 私より遠藤の方が存在感があるでしょ」

となんの嫌味なのか、言ってくる。


 いやいや……。


 貴方は誰より存在感ありますよ。


 いや、ほんとに、と思っていた。


「堺さんには、見えてるんですか?」

と訊いてみるが、いいえ、と言う。


「私にも見えませんよー」

と恵利が無理やり話に乗ってきた。


 だが、晶生は、

「ありがとうございます」

と礼を言った。


「ってことは、確実に生きた人間じゃないですね」

と恵利に言ったあとで、


「真田くん、どんな感じの霊なの?」

と訊いてみる。


 自分には見えていない霊の説明聞くことはあまりないので、なんだか不思議な感じだった。


 窓の外に居るモノを見極めようとするように、真田は目を細めてみている。


 いや、それで人ならぬものがよく見えるようになるかは知らないが……、と思っていると、彼が口を開いた。


「……綺麗な女の人だよ。

 道にぼんやり立って、下を見てる。


 ちょっと物悲しげなっていうか、儚げなっていうか」

と呟いた真田をからかうように堺が言う。


「そんな雰囲気のある美女の霊なら、見えてもいいかなとか、思ってない?


 ほとんどの霊はなんか訳わかんないのとか。

 ブツブツ言ってるのとか。


 グロテスクなのとかばっかりなんだからね」


「見えてもいいなんて思ってませんよ」

と多少赤くなりながら、真田は言ってきた。


 そんな真田に不安を覚え、晶生は、

「あのー、真田くん、美女でも思い入れはしないでね」

と忠告する。


「その霊、私があのとき、此処で見た霊かも。

 でも、なんで今、私には見えなくて、真田くんにだけ見えるんだろ」

と自分で考えを整理しようとするように呟くと、堺が言ってきた。


「さあねえ。

 たまたま、彼だけ波長が合ったか。


 実は、彼に見えている世界は、私たちに見えているのとは違うモノだとか?」


 ……違うモノねえ、とまだ道の方を窺っている真田を見る。


 妙な感じだ。


 いつもは逆の立場なのに。


 今日は私の方が彼がなにを見ているのかわからない。


 ただ、その視線から推察するだけだ。


 真田が、ぽつりと言ってきた。


「……いつまで見えるんだろうな」


「え?」


「いつまで、お前と同じ物が見えるんだろうな」


 そう言いながら、まだ、窓の外を見つめている――。




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