真田くん、まだ時間ある?
その霊は真田にしばらく見えていて、やがて、すうっと消えたようだった。
晶生が見たとき、その女の霊が黙って刺された男を見下ろしていたと聞いた真田は、
「可哀想にな。
刺された男の恋人とか、関係者なのかな?」
と同情気味に言い出した。
……これはヤバイ、と晶生は思う。
やはり、普段見えない人間に、突然、こういう世界が見え始めるのは危険なことのようだ。
女の霊は真田に姿を見せるだけで、特に接触して来てはいないようだから、今すぐに引っ張られるということはないかもしれないが――。
「もう~、仕方ないなあ」
と呟いた晶生は、食べ終わってすぐ、立ち上がる。
真田がもう女の居ない道をまだ見ていたからだ。
「ちょっと今から、堀田さんと連絡とるから。
一緒に刺された人のところに行こう」
そう真田を見下ろし言うと、
「なんでだ?」
とこちらを見上げ、言ってくる。
いや……、と言いかけ、晶生は言葉を止めた。
貴方が霊に引っ張られそうだから、早く事件を解決したいんですよ、と晶生は思う。
堺のようになんだかわからない霊を引き連れて歩いていても気にならない人間ならいいのだが、真田はそうではないようだから。
「えー、もう帰っちゃうんですかー?」
と言う恵利にまた来ると約束して、店の外に出る。
堀田に電話した。
「堀田さん、すみません。
例の刺された人、まだ病院ですよね?」
『当たり前だろ、死にかけてるのに』
なんの用だ、と素っ気なく堀田は言ってくる。
「真田くんがちょっと思い出したことがあるので、確認のため、刺された人の顔を見たいそうなんですが」
そう言う横で、真田が、
ええっ?
俺、なにも思い出してないけどっ、という顔をしていた。
……電話でよかった、と思いながら、
『思い出したことがあるなら、俺に言えばいいだろ』
と言う堀田の言葉を聞く。
ごもっともでございます……。
「いえ、刺された人の顔を見たら、思い出しそうなことがあるらしいんですよ」
と曖昧な感じに言いかえると、
『どんな言い訳だ、須藤晶生』
と言われてしまう。
「あのー、堀田さん。
病院と部屋番号教えてくれたら、さりげなく、病室の前を通りかかったたフリをして覗きますから」
『駄目だ』
「近く通るだけでいいんですってば。
カーテン閉まっててもいいですから」
と思わず言って、
『顔見たら、思い出すんじゃなかったのか……』
と言われてしまう。
だが、少しの間の後、溜息をついた堀田は、
『
下で待ってろ。
俺も行く』
と言って電話を切った。
「堀田さんが来てくれるそうですよ」
と堺に言うと、
「なんだかんだで、あのジイさんもあんたに甘いわね」
と言ってきた。
いや、ジイさんって年じゃないけど、と思いながら、
「真田くん、まだ時間ある?」
と訊くと、ああ……と言う。
「来るわよね。
ほぼ、あんたのためなんだから」
と堺が真田に言っていた。
「堺さん、すみません。
近くまででいいんで、乗せてってくれませんか?」
「あら、ついていくわよ」
「近くまででいいんで」
と晶生は繰り返す。
「私たちより、沐生についててやってくださいよ。
また、何処の霊に人前で話しかけるかわからないから」
と言うと、
「大丈夫よ。
台詞の練習でもしてると思うでしょ。
台本読んでると、すぐに自分の世界に入っちゃう人だし。
いい役者だけど、やっぱり変人よね」
と切り捨てるように言う堺に、
「いや、貴方のとこの役者ですよね……」
と呟くように言ってみた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます