あっさり言うな~っ!
真田が使えれば良かったのにな、と沐生は思っていた。
スタジオの隅、台本から顔を上げ、珍しく側に居る堺に言った。
「今日は、エキストラが多いようだな」
「……居ないわよ、全然」
……そうか。
素っ気ない堺の口調に、それ以上、突っ込まなかった。
堺は撮影が続いているスタジオの中央を見ながら言ってくる。
「頼むわよ、沐生。
知らない人に挨拶とかしないでよ。
あんた、霊感タレントとかで売ってるわけじゃないのよ」
「お前が側に居て、教えてくれればいいんじゃないのか?」
と言うと、
「なに言ってんのよ。
私は忙しいのよ。
見なさいよ。
あそこのマネージャーだって、滅多に見ないわよ」
と斜め前方を指差す。
他所の事務所のマネージャーが忙しげに、スタッフとなにか打ち合わせていた。
「グループひとりひとり、面倒見てらんないって言ってたわよ」
いや……あっちはともかく、俺はひとりなんだが……と思ったが、やはり、そこも突っ込まなかった。
忙しい忙しいって、晶生にちょっかいかける暇はあるようなのにな。
っていうか、未成年の晶生相手じゃ、犯罪だぞ。
……いや、俺もだが。
そんなことを考えながらも、
「あの病室の看護師」
と言うと、ようやく、堺は振り向いた。
「晶生が気になっているようだ」
堺も気づいていたようで、
「なにかあるのかしらね」
と言う。
看護師が消えるまで、息を詰めて、彼女の口の動きを見ている晶生を真田は見ていた。
「晶生、今、この人……」
と真田が言いかけたとき、ガラリと部屋の戸が開いた。
「真田くん、退院だってー」
昨日、沐生のサインをもらってあげた看護師が現れ、そんなことを言ってくる。
「えっ?
退院?」
「先生が今から診察するから。
それで異常なかったら、帰っていいって」
少しキョロキョロ周りを見回し、戸を閉めた彼女は言ってきた。
「たぶん、レントゲン間違えたんだよ。
誤診だよ。
怖いよねー。
ああいうの、連携ミスでたまにあるんだよ」
いや……たまにでも、あっちゃ駄目だろ、と真田は退院を喜びつつも思ったが、妙なタイミングだな、とも思っていた。
晶生はまだ、あの看護師の居た場所を見ている。
「あ、彼女?
可愛いねー」
と晶生に話を振ったので、聞いていないようだった晶生は適当に、えっ? はい、とか答えるかなとちょっとドキドキして待っていたのだが。
晶生はあっさり、
「違います」
と彼女を振り向き言っていた……。
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