気になる人

 




 相変わらず、不思議な奴だ、晶生。


 何故、見たこともない、あったこともないカルテの男が気になる? と思いながら、真田は、今も目の前に居るのに、まったく他所事を考えているかのような晶生の顔を眺めていた。


 芸能人とか、全然別の世界の生き物で。


 顔も身体も性格も全然、自分なんかとは造りが違うんだろうと思っていたが。


 ……本当に違うな、と今、改めて思っている。


 長谷川沐生とか。


 人間か? と言いたくなるようなオーラを放っているし。


 俗物っぽい雰囲気を醸し出している坂本日向だって、普通のちょっと可愛い子とは全く違う。


 側を通ると、日向だと気づかなくとも、みなが振り返るようなにかがある。


 そして、ずっと側に居た晶生が元モデルだと聞かされて。


 まあ、そうかもなーと思っている。


 これだけ綺麗なのに、誰も晶生に告白していかないのは、変わっているということだけが理由ではないのだろう。


 なんというか近寄りがたい。


 長谷川沐生とはまた違うが、やはり、人間なのか? と問いたくなる気配を放っている。


 そうして、夕暮れどきの病室で物思いにふけっているだけで、一枚の絵のようだが。


 見つめているだけで、彼女の見ている不思議な世界に染められてしまいそうな怖さがある。


 深遠なる問題について考えていそうで、意外としょうもないことを考えていたりするんだがな、と側に居るのに、ずっと沈黙している晶生の顔を、真田は自らもまた沈黙しながら眺めていた。


「沐生が此処へ来たでしょ」

 ふいに晶生が口を開いた。


 だが、ずっと、そのことについて考えていたのではないと思う。


 ぽん、と思考の飛ぶ人間だからだ。


「あれ、真田くんが霊が見えるようになったと聞いたからなのよ」


 そういえば――。


『真田。

 お前は、霊と人間の区別はつくのか』

とか訊いてきたんだったな、と思い出す。


「真田くんに、霊かどうか見分けて欲しかったみたい。

 いつもと違うスタジオとかロケ地とか行くと、わからないから。


 私を連れていくわけにはいかないし。

 似たりよったりで、当てにならないし。


 堺さんは、百パーセント、嘘を教えるしね」


「……どんなマネージャーだよ。

 っていうか、あの人、俺を連れて歩くつもりだったのか?」


 無理だろ、と言うと、晶生は、

「……そうよね。

 まあ、バイト代くらいはくれると思うけど」

と言ったところで、晶生はなにかに引かれたように後ろ振り返る。


 後ろ――。


 いや、おのれの左肩辺りか。


 晶生は、そのまま、そこを黙って見ている。


「なんなんだよっ。

 誰かそこ、掴んでるとか言うんじゃないだろうなっ」

と布団を握り締め、言ったのだが、晶生はそちらを見たまま、


「いやいや。

 今、そんな怨霊が現れたら、真田くんにでも見えてるはずでしょ?」

と言ってきた。


 ……その一言は聞きたくなかったな、と思ったそのとき、晶生が顔を上げた。


 正面を見る。


 今までなら、なんだ? と思うところだが、自分もその気配を感じたし、見えていた。


 看護師がこちらを向いて立っていた。


 彼女の声は聞こえなかったが。


 その目が一点を見たまま、口許だけが動いたのは見えた――。






 

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