なにしに来たっ!?
くそつまらんなー。
なんで、最近のテレビはスペシャル番組ばっかりなんだ。
真田は棚の上に置かれた小さな液晶テレビを見ていたのだが、目が疲れてきて、寝返りを打った。
ん? と思う。
視界の端で、なにかが動いたからだ。
閉まってたはずの入り口の大きな白い扉が少し開いている。
霊っ!?
と思わず身構えたのだが、そこから覗いていたのは、サングラスをかけた長身の男だった。
……霊ではないな。
あんな目立つ霊は居ない気がする……。
いや、こいつが死んで霊になったら、やはり、こんな感じの霊になるのかもしれないが。
サングラスが様になりすぎて、逆に目立ってしまっている男、長谷川沐生がそこに居た。
何故、此処に……と思っていると、沐生は、その狭い隙間から覗いたまま、
「入っていいか」
と訊いてくる。
寝ていたら悪いと思って、覗いてみたのかもしれないが、かえって心臓に悪い。
というか、廊下側の人間から見たら、何故か、長谷川沐生が男子高校生の病室を覗いているという異様な図となっているわけだが……。
一体、なにをしに来たんだろうな?
見舞いっ?
なんでまた。
いや、身動き取れない……こともない俺をこの機に乗じてっ。
と思ったが、悲しいことに、沐生にとって、なんにも邪魔ではない自分を知っていた。
なんだかんだで、晶生はこの男にメロメロだからな……と思いながら、
「晶生なら来てませんよ」
彼女を探しに来たのかと思い、そう言ったが、沐生は、知っている、と言う。
沐生は、つかつかとやって来ると、真っ直ぐに自分を見つめた。
「真田、お前に会いに来たんだ」
そう男も見惚れる美しい顔で言ってくる。
……やめてください、ときめくから。
なんか負けた気がする。
恋敵なのに、と悲しく目をそらしたとき、沐生が言ってきた。
「真田。
お前は、霊と人間の区別はつくのか」
「……つきませんが」
と言うと、
「じゃあ、いい」
と言い、あっさり帰ろうとする。
なにしに来たーっ、長谷川沐生ーっ!
だが、沐生は思い出したように、戸口で振り返り、手にしていた鞄から、可愛らしい小さな箱を差し出してきた。
レースのリボンで包まれた透明なケースに淡いパステルカラーのドラジェが入っている。
「この間、水沢が刺殺されかけたときのシュークリームの店のだ」
美味いらしい、と言う。
いや……刺殺されかけた、の説明は、今、いらない気がするんですが、と思いながらいただく。
「小さいが、お前ひとりだから、甘いものは、そんなに食べないだろうと思って、これを持ってきた。
幸せを運んでくれると書いてあったから」
と珍しく長くしゃべる。
「……出産とか、結婚とか」
買ったあと、その説明を見て、失敗したと思ったのだろう。
声が微妙に小さくなっていった。
こういうところは、ちょっと可愛いかもな、と思いながら、
「い、いや、ありがとうございます……」
と言うと、沐生は、手にしていた洒落た帽子で点滴のスタンドの前を指差し、言ってきた。
「ところで、その看護師は生きてるか?」
ひっ、いつの間にっ、と振り返る。
あの点滴スタンドの前に、またあの白いナース服の女が居た。
こちらに背を向け、立っている。
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