うっかり探偵始めました II
相変わらず、ときめくような匂いと内装の店内だ。
だが、あの事件のことも思い出してしまうので、凛が一緒に来ていなくてよかったかと晶生は思っていた。
晶生たちを席に案内しながら、その店員、
「あの、内緒なんですけど。
実は――
取材の打ち合わせで、奥の部屋に坂本日向さんが来てるんです」
……帰ろう、今すぐに、と晶生は思った。
だが、その瞬間、その奥の扉が開いて、日向が現れる。
相変わらず、露出の多い服だが、日向の性格のせいか、何処か健康的だ。
その日向がめざとく晶生を見つけ、
「晶生っ」
と笑って手を振ってくる。
まるで、別の誰かが呼ばれでもしたように、晶生は、外に向かい、視線をそらした。
だが、容赦なく、日向は近づいてくる。
「もう~っ、なんなのよ、晶生っ」
しかし、日向に罵られるまでもなく、晶生は、彼女から目をそらしたことを後悔していた。
ちょうど視線を向けた外の通りで、誰かが殺されていたからだ。
若い男がこちらに背を向けている男を刺している。
晶生は目を細め、それを見た。
……生きてる?
生きてない?
残像かなにかだといいな、と思いながら、眺めていると、同じようにそれを見ているものが居た。
彼らのすぐ側を歩いていたOLらしき女性だ。
足を止め、ぼんやりそれを見ている。
いきなり真横でそんなことが起きても、人はなかなか現実のものとして受け入れられないようだ。
一拍置いて、女性が悲鳴を上げ、刺した男は逃げ出した。
同じように、え? なにこれ、現実? と思いながら、それを見ていたらしい恵利が、いきなり、はっとしたように、こちらを振り向き、叫んできた。
「うっ、うっかり探偵さんっ!
出番ですっ」
「晶生っ、出番よっ!」
と右から恵利、左から日向が腕をつかんできて叫ぶ。
「莫迦っ。
救急車だっ!」
と真田が一番まともな反応を示し、スマホで救急車を呼んでいた。
晶生はまだ、倒れている男を見ていた。
その側に、彼を見下ろす女が居るのに気づいていたからだ。
若い女だ。
白いワンピースを着ている。
周りで悲鳴が上がっているのに、その女は黙って男を見下ろしていた。
さっきのOLはもう居なくなっており、刺された男に駆け寄ったサラリーマン風の男がそのワンピースの女を突き抜けたので、
ああ……生きてない人なのか、と晶生はぼんやり思った。
先程のOLよりも何故かその女の方に親しみを覚えてしまうのは、彼女が霊だからなのか。
それとも、人が死ぬ様を、ただぼんやりと見下ろしているその姿が、過去の自分と重なったからなのか。
そんなことを思いながら、晶生は救急車が到着するまで、ガラス越しにその二人を見ていた。
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