うっかり探偵始めました III
病院に運ばれていった男はまだ息があったようだった。
一騒動収まって、ようやく晶生たちも外に出る。
すると、しゃがんで道に描かれていたヒトガタを見ていた堀田が振り向きもせず言ってきた。
「ほう。
犯人、自らやって来るとは――」
「あのー、堀田さん。
私が居れば、私が犯人ってわけじゃありませんからね」
と言うと、堀田は現場を見たまま、
「わしは、なんの事件の犯人とも言ってない」
と言う。
はあ、そうですか、と思っていると、鑑識の人間と一緒に、なにが入っているのか、ダンボールを運んでいた林田がこちらを見、
「あ、晶生ちゃん、こんにちは」
とほがらかに言ってきた。
あのー、此処は事件現場ですが……。
この人たちはもう、いろいろと麻痺してるんだろうなあ、と思っている晶生に、堀田が、
「おい、霊媒探偵」
と呼びかけてくる。
……なんでだ、と思っていると、
「田所がそう言っていた」
と言う。
……田所さん。
「須藤晶生。
犯人の男はどんな奴だ」
立ち上がった堀田が晶生を見て訊いてきた。
「霊視しろと?」
と思わず言って、莫迦か、お前は、と言われてしまう。
「誰も死んでねえだろうが。
そうじゃない。
お前ら、見てたんだろうが、目撃者さんよ」
そういえば、そうだったな、と思い出す。
自分たちは、生きている犯人が逃げていくのを見た目撃者だった。
いや、貴方が最初に霊媒探偵とか言うからですよ、と晶生は思っていた。
でも――。
霊に訊こうにも、誰も死んでねえだろうが、か。
いや、『既に死んでた人間』なら、あの場に居たが……。
だが、あの女の霊は今、此処には居ないようだった。
なので、堀田にはとりあえず、見たままを答える。
「それがですね。
見てはいたんですが、私は目が悪いので。
霊なら遠くてもはっきり見えるんですけどねー」
そう言い終わらないうちに、堀田に、
「使えねえなあ」
と言われてしまう。
「あー、えっと。
日向とか、此処の愉快な店員さんとか、真田くんとかなら見てたかもしれないですけどね」
と言うと、
「あの坊っちゃんも、毎度居るなあ」
と麻友たちと一緒に店の前に立っている真田を見ながら、堀田は呟く。
「ああ、でも、間近で見てた人居ましたよ。
OLさん風の人」
走って逃げちゃいましたけどね、と言うと、そうか、と堀田は溜息をつき、林田は、
「出て来てくれるといいですけどねー」
と眉をひそめる。
「関わり合いになるのが嫌で、目撃してても、名乗り出て来ない人も居るんですよ~」
まあ、そうかもしれないな、と晶生も思う。
あの人も現実感なさそうに眺めていたから。
「出て来なかったから捕まえるって報道してみたらどうでしょう」
「出来るか、莫迦、そんなこと」
まあ、それはそうかも、と思いながら、あの女の霊が消えた場所を見つめていた。
「遠藤、居ないの?」
また廃墟ホテルの扉は鍵が開けっ放しになっていた。
大きな花瓶くらいしか物のない広いホールに晶生の声が反響する。
此処に近づくと感じる遠藤の気配がしなかったので、そう呼びかけてみたのだが、すぐに、
「なんだ、晶生か」
と声がし、階段に、腹を刺されている気障な身なりの男が現れる。
腹から血が滲み出しているのに、平気な顔で手を挙げてくるさまが不気味と言えば、不気味だ。
「遠藤。
今、どっか行ってた?」
と訊くと、
「私は何処にも行けない。
そう言わなかったか」
そう遠藤は言ってくる。
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