わたし、やりました……

うっかり探偵始めました I

 




「晶生、今日、帰り、なにか食べて帰らない?

 いいお店があるのよ」


 教室を出る前、篠田麻友しのだ まゆがそう声をかけてきた。


 ああ、平和だ。

 学校で寄り道の相談とか。


 こんな私でも和むな、と思いながら、

「行こうかな」

と呟くと、


「じゃあ、俺も行く」

と真後ろで声がした。


 いきなり背後に立つな、霊より怖いわ、と思いながら、晶生は真田を振り返った。


「やだーっ。

 真田くん、行くの?


 じゃあ、私も行くー」

とどっと女子の参加者が増えてしまった。


 ……まあいいか。


 夕暮れの道を一人で歩くのは嫌いだ。


 そのまま違う世界へと引きずり込まれてしまいそうだから。


 そんなことを思っていたが、まだまだ帰りの道は真昼のように明るく、眩しかった。


 目を細め、遠藤の居るホテルを見る。


 こうして見ると、ただの小汚ないホテルなんだが、と思う晶生の頭の中には、あの日、遠藤が見せてくれた豪奢で美しいホテルの姿がまだ残っていた。


 今は崩れ落ちそうなそのコンクリートの建物を見上げ、昔はコンクリートって永遠だと思われてたらしいのに。


 儚いものだな、とその窓を見た。


 雨風で汚れたままの窓の向こうに、あの大きな花瓶は見えたが、遠藤の姿は見えなかった。


 でも、きっと、前を通るなら寄ってけ、と思ってるだろうな、と思う。


 彼はいつも暇を持て余しているから。


 っていうか、身軽な霊なんだから、外に出てきて、呼び込んでもいいはずなのに、あの怠惰な男はあそこから動かない。


 ホテルの中を窺う自分を女の子たちに囲まれた真田が振り返り見ていた。






「此処、此処。

 此処のスイーツ、絶品なのよっ」

と麻友が主張する。


 げ、と晶生は固まっていた。


 例の田所と来た店ではないか。


 今更帰るわけにも行かず、みんなに付いて入ると、いらっしゃいませー、と声がして振り返った女の店員が、晶生を見て、声を上げた。


「あれっ?

 うっかり探偵さんっ」


 慌てて手を振ると、彼女は小首を傾げ、

「偶然探偵でしたっけ?」

と言ってきた。


 どっちでもないよー! と心の中で絶叫する。


 麻友たちが、

「知り合い?」

と訊いてきた。






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