たぶん、そこに居ます III

 



「すみません。

 私、秋村凛の友だちなんですが」

と篠塚の母に断ったが、まあ、制服でわかっていただろうとは思った。


「実は、霊が見えるんです。

 篠塚さんが今、何処に居るのか知りたいと秋村さんと田所さんに頼まれまして」

と言うと、えっ? 田所さんにも? という顔を母親がする。


 田所親子を窺うように見ていた。


 凛だけでなく、恋敵の田所までも、自分にそう頼んだというので、少し信憑性が増したようだった。


「でも、残念ながら、この二人の許には、篠塚さんは居ませんでした」

と言うと、母親は慌てて、自分の周囲を見回す。


 母親としては、恋人より自分の許に居て欲しいと願うのだろう。


 話の続きを聞きたそうに見えた。


「……息子さんは、恐らく、この家の中に居ます」


 篠塚さん、と晶生は、母親に呼びかけた。


「息子さんは、こちらの方角に居ます」

と東の方角を指差す。


 えっ? と全員がそっちを見る。


「ほんとなの? 晶生」

と堺が耳許で囁いてくる。


 堺さん、近くに来ると、女の私よりいい匂いがするな、と思いながら、

「いや……たぶん」

と言うと、またハッタリ? と言ってくる。


 すると、篠塚の母が晶生の指差した方を見ながら言ってきた。


「あちらには、息子が勉強するとき使っていた離れが」


「凄いじゃないの。

 これで本人がそこに居ればだけど」

と堺が感心するというより、飽きれたように言ってくる。


「……実はさっき、勉強部屋の方角を訊いたとき、奥さんがチラとあっちに視線を走らせたからです。


 それと、長男の部屋は東側がいいって風水の番組で言ってたから」


「さすがね、ハッタリ探偵」

と堺は今度は周囲に聞こえるような声で言ってくる。


 篠塚の母は、離れが気になって仕方がないらしく、聞いていなかったようだが、田所たちはこちらを振り返り、苦笑いしていた。


 もうずいぶん、晶生のやり口に慣れてきているようだった。


 晶生は堺を見ながら、この男の口にガムテープでも貼っておきたい、と思っていた。


 いや……男。

 男なのか? と篠塚の母と同じ方角を向いている綺麗な横顔を見ながら、思っていた。





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