そこに居ました……


 



 離れに入れてもらった晶生には、はっきりとその姿が見えていた。


 窓際の机を示して言う。


「此処です。

 此処で勉強してます、篠塚さん」


 もう彼にはなにも残せはしないのに、と晶生は言った。


「今も机にかじりついて、勉強してます」


 後ろに母親も恋人も来ているのに気づくこともなく。


 そこで、晶生は田所を向いて言った。


「……貴方に今、これを言うのは酷かな、とは思うんですが。


 田所さん、彼はこの先も貴方のお嬢さんを苦しめる存在ではあったでしょうが――。


 でも、彼はいい医者か研究者にはなったと思いますね」


 田所は俯き考え込んでいて。


 篠塚の母は、誰の話も聞いてはおらず、机の方を見ていた。


 凛はひとつ溜息をつき、机に近づく。


 彼女の目には見えていないのだろうに、彼の肩にかけてやるように、そこにあったカーディガンを椅子にかけてやっていた。


 椅子を見つめ、凛は呟く。


「でも……そういうところが好きだったのかも」


「……うん」

と真奈美が頷いた。


 一番嫌いな相手だろうが、こういうときは、一番わかり合える相手でもあるようだった。


 人の心のわからない、不器用で、勉強にだけ愚直だった男が好きだった者同士――。


「それから、田所さん」

と晶生は振り返る。


「はい」

「死体、あそこには捨てないでください」


 はい? という顔をしたあとで、その意味がわかったらしく、田所は笑った。


「すみません。

 なんとなくあそこがいいかなって思ったんですよ」


 小声で堺が言ってくる。


「サスペンスの見過ぎか、霊に呼ばれたか、ね」

と。


 そのあと、堺はみんなにも聞こえるように、

「それにしても、よくわかったわね、晶生」

と言ってきた。


「学校も考えたんですけど、まあ、いつも落ち着いて集中して勉強できてた場所かなと」


 当たってよかったです、と言って、

「また偶然っ?」

と言われてしまう。


「ハッタリ好きの偶然探偵なんで」

と堺の言った言葉を引き取り言った。


 凛たちも今は笑っている。


 帰ったらきっと、一人泣くのだろうが。


 いや、沐生だったら、スタジオに居るかな、と思ったからわかったのだが。


 ……ほんとにスタジオに居たら、殺してやる、とも思っていた。


 霊を殺せるかどうか、まだ試してみたことはないのだが……。




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