実は、此処に居ます III
「こんにちは。
田所さん」
晶生はその瀟洒な階段を下りながら、田所に向かい、話しかけた。
こんにちはというより、こんばんはかな、と思う。
もう日はかなり落ちていたからだ。
晶生は、廃墟ホテルに田所を呼び出していた。
階段下から田所が自分を見上げている。
「実は、此処にもう一人居るんですけど。
遠藤という……
特にポルターガイストも起こせない、ちょっぴり役に立たない人なんですけど」
おい、こら、と相変わらず、腹を刺されたまま此処に座っている遠藤が言う。
「そうですか。
外にももう一人いらっしゃるようなんですが」
と振り返りながら、田所は言う。
えっ? と見ると、扉の陰から見知った人影が覗いていた。
「堺さん~っ」
堺がひょいと入り口から覗いた。
「やだもう。
晶生ったら。
ひとりがウロウロしちゃ危ないじゃないの~」
と言ってくる。
いや、だから、後をつけ回す貴方の方が危ない気がするんですが……、と思っていると、田所も言ってきた。
「ほんとですよ、晶生さん。
いつもこんなことをされてるんですか?
危ないですよ。
犯人を呼び出して問い詰めようとか」
ん? と堺と田所を見る。
「田所さん、犯人なんですか?」
「そう思って呼んだんじゃないんですか?」
「いや、そうかなーとは思ってたんですけど。
実は、今日お呼びしたのは、ただ単に、貴方の娘さんの婚約者が何処に居るかについてだったんですけど」
困りましたね、と晶生は腕を組み、小首を傾げる。
「特に今、確かめたくはなかったんですけどね」
すると、下から堺も言ってくる。
「そうよ。
あんた、また、推理してないじゃないのっ!
だから、名前変えなさいよ。
うっかり犯人知っちゃう、うっかり探偵とかっ」
「いや、だから、私、探偵じゃないですし」
それに、推理しなければならないことなら、別にある、と思っていた。
田所が淡々と言ってくる。
「そうですよね。
探偵さんじゃなくて、霊能者の方ですよね。
だから、私、最初に話したときから、どうせ貴女にはすぐわかることなんだろうなと思っていました」
それでも自分に依頼してきたのか、と思う。
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