実は、此処に居ます IV





「いつ、私が犯人だと思われたんですか?」


 そう田所は晶生に訊いてきた。


 うむ。

 その話題はやめて欲しいんだが、と晶生は思っていた。


 普段なら犯人がわかっても放っておくという手もあるのだが。

 今回はそうもいかないだろうから。


「軽い消去法です」

と仕方なく語りながら、少し階段を下りた晶生を横目に遠藤が見る。


「まず、怪しいのは、凛とお宅の娘さんです。


 お宅の娘さんには、事件後、お会いしましたけど。

 なんていうんでしょう。


 カラッとしていて、人を殺した人間に見られるような影は一切感じられませんでした」


 まあ、ちょっとカラッとしすぎか、と思う。


 やはり、二股かけていた婚約者が死んだことで、少しほっとした部分もあるのかもしれない、と思った。


 凛にもう取られなくて済むから。


 その気持ちはわかるようでわからないが。


「娘さんは意外に繊細そうなので、人を殺してああいう態度ではいられないと思います」


 意外と繊細って、あんた親の前で、という顔で堺が見るが、いや、親だからこそ、わかっていることもあるだろう。


「それから、凛ですが。

 凛はあそこではやりませんから、除外出来ます」


 何故? と田所がこちらを見上げて訊いてくる。


「あそこに死体を沈められると、私が非常に迷惑するのを知っているからです」


 ……そうですか、と言う田所は、それ以上追求せずにいてくれた。


「この二人のどちらでもないな、と思ったそこへ貴方が現れたんです。


 貴方は、あの店に殺された婚約者の方と行ったことを黙っていた。


 そして、婚約者の人の霊を一人が探している。

 娘さんのためにという感じではなかったですから。


 まあ、なにかあるのかなーと思って。


 ……そこで思考を止めておきたかったんですけどね」

と晶生は苦笑いする。


「そうですか」

と呟いた田所は、


「でも、晶生さん、本当に、こんなところに人を呼び出すのはやめた方がいいですよ」

と忠告してくれる。


「私は罪は償うつもりですが、娘や妻のために、やはり隠蔽したくなって、貴女を殺してしまってもおかしくなかったんですよ。


 この堺さんが来てくださらなかったら」

と言う。


 いや、突然、此処に現れたその人の方が危ない人ですから……と思っていると、斜め下から遠藤が、

「この御仁にとっては、私は物の数に入っていないようだな」

と渋い顔で言ってきた。


「あのー、遠藤も、此処で見ていて、霊が見える人たちに伝えることは出来ますが」


「でも、それ、貴女が殺されたあとの話では?」

と田所は言う。

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