そこに居ます VI




 帰りの車の中、堺が言ってきた。


「晶生。

 あんた、もう犯人わかってるんじゃないの?」


「なんでですか?」

と晶生が訊くと、だって、そんな顔してるから、と言う。


「いや……。

 確信があるわけじゃないんですけど。


 ちょっとシンパシーを感じてしまいまして」


 そこでいきなり、堺は車を止めた。


 薄暗い中、街灯の灯りに照らされたブロック塀とその先の暗闇にいつも居る白いおじさんの霊を見ながら、

「堺さん、家、まだですけど」

と言ったのだが、


「……晶生」

と言ったきり、堺は黙っている。


 握ったままのハンドルを見ていた。


「どうしたんですか?」


 そう訊くと、俯いたまま、

「キスしてくれたら、話してあげるわ」

と言い出した。


 晶生は白い霊の方を見ながら、少し考え、

「それ、キスした程度で話せる話ですか?」

と訊いてしまった。


 いや、キスというものを軽く考えていたわけではなく、堺の口から出るかもしれないと思っていた言葉に、更に重みがある、と考えただけなのだが、堺はキレ気味に言ってきた。


「あんた、私は今、結構な覚悟で言ったのにっ。

 随分軽く言ってくれるわねえ~」


 じゃあ、今すぐするわよっ、と迫られるというより、胸ぐらを掴まれる。


「すっ、すみませんってばっ。

 そういう意味じゃなくてですねっ」

と弁解しようとしたのだが、堺は手を放し、


「なんだか気が削がれちゃったわ。

 もう教えないーっと」

と言い出す。


 いや……


 最初から教えるつもりなかったですよね、と思いながら、車を発進させる堺を見ていた。


 手だけ見ると、紛うことなき男だな、と思いながら。


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