そこに居ます V

 


「そうか。

 これを待ってたのね」

と言う堺に、


「待ってないです。

 知らなかったんですから」

と晶生は返す。


「まあ、来たことあるのかなあとは思ってましたよ。

 店の外から此処見上げてる感じとかで」


「水こぼしたのは?」

「偶然ですよ」


 ああ、いつもの間抜け、と呆れたように堺が言う。


「そしたら、初めて入ったにしては、背中の方にあったカウンターの後ろのおしぼり持ってきてくれたから、ああ、前に違う席に座ったことがあるのかな、とは思いましたけど」

と言うと、


「……あんた名前改めたら?」

と堺は言い出す。


「心霊探偵改め、うっかり探偵とか。

 偶然探偵とか。


 うっかり、犯人を見つけてしまったり。

 うっかり、証拠を見つけてしまったり」


「いやあの、そもそも、私、心霊探偵も名乗ってませんからね」

と揉めている横で店員さんは笑っていた。


 しまった。

 田所さんが戻ってくる前に、この人に詳しい話を聞かなければ、と慌てて向き直る。


「あの、あの人がダムで殺された人のお父さんって」


「いえ、ニュースで殺された方の顔を見て、見たことあるなって思ってたんです。

 警察の方が此処にも来られたようなんですが、私、その日は居なくて。


 被害者の方が、以前、あの方と来られて」

と店員はガラス張りの向こうに居る田所を見る。


「おとうさんって呼んでらしたから」

「あー、なるほど」

と堺が頷く。


 耳で聞いただけでは、『お父さん』としか聞こえないから。


 例え、それが義理の父になる人のことであろうとも。


「なんで此処に来たこと黙ってたのかしらね。

 田所さんが犯人とか?」


 さあ、と軽く言うと、

「さあってなに?」

と睨まれる。


「……いや。

 ああ、そういえば、犯人探しも凛に頼まれてたか」

と晶生は呟く。


「田所さんと真奈美さんには、被害者の霊を探してって言われただけだから」


「あんた、依頼されなきゃ、犯人探さないの?」


「私、警察じゃないんで」


 それを言うなら、捕まえなきゃいけない人間がそこ此処に居ますしね、と思う。


 まず私とか……。


「探偵さんなんですか」

と店員さんは感心したように言う。


「初めて見ました」


「だから違いますよ。

 っていうか、きっと見たことはありますよ。


 本人名乗って歩いてないだけで」


「あの、もしよろしかったら、名刺とかいただけますか?

 なにか事件があったときのために」


 なんでだ。

 これから、なにかやらかす気ですか?


 まあ、それなら、弁護士に頼むかと思いながら、

「いや、名刺は……」

と言いかけると、堺が勝手に自分の名刺を渡している。


「私、この子のマネージャーで、堺と申します」


 名刺を見た店員さんが、

「えっ。

 芸能事務所に所属されてるんですか?

 探偵さんって」

と驚く。


 いや、そんな莫迦な……。


 混乱するから止めてあげて、と思っていると、

「この子、本当は探偵じゃなくて、今売り出し中の霊能者なんですよ」

と言い出す。


 いや、本当はって、なにも本当じゃないよ。


「えっ。

 そうなんですかっ?


 私、笹井さんとか大ファンなんですよ。

 笹井さんも芸能プロに所属してたりするんですかねっ?」


「あのくらいの人になると、スケジュール管理も大変ですからね」


「わあ、サインください。

 貴女のと、笹井さんのと」


「わ、私のはちょっと……。

 笹井さんには、今度頼んでおきますよ」


 色紙は私が用意するのでいいですよ、と仕事をさておいて、買いに行こうとする店員さんを止めた。


「お礼です。

 いい情報教えてもらったので」


「田所さん、戻ってきたわよ」

と小声で堺が囁く。


「あっ。

 じゃあ、私も配置につきますねっ」


 配置って、なんだ……と思っている間に、店員さんはカウンターの向こうに戻っていってしまった。





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