そこに居ます II




「あ~き~お~」


 翌日の学校帰り、いきなりした声に、晶生は逃げかかる。


 何処の怨霊かと思った……。


 家の近くの曲がり角に車を停め、堺が待ち伏せしていたのだ。


「あんた、なんで私じゃなくて、汀を指名したのよ」

と言いながら、メモらしきものをヒラヒラと振っている。


 田所が連絡してきたようだった。


「あ、ありがとうございます」

と取ろうとする、ひょい、と堺はそれを上へと上げてしまった。


「キスしてくれるまで渡さないから」


「じゃあ、今から田所さんに連絡しますよ」

とポケットに入れていた田所の名刺を探そうとすると、なんなのよ、もう~、と腕をつかんでくる。


「汀があんたに連絡しようとしたのを、取り上げてきたんだからっ」


 いや、あんた、社長になにしてんだ、と思った。


「なんで、私じゃなくて、汀なのよっ」

「そうやってめんどくさいからですよ」


 恨みがましく見ている堺の手からメモを取り上げる。


 田所は、もし、晶生の予定が合うなら、今日は七時には仕事を切り上げるらかと言ってきたようだった。


「どのみち連絡しなきゃですね」

と言うと、堺は、


「わかった。

 もういい帰るわ」

と言って車に戻ろうとする。


 晶生は溜息をついて言った。


「田所さんとあのスイーツの店に行こうと思うんですけど。

 一緒に行きますか? 堺さん」


 ほんと? と堺はすぐ戻ってくる。


 ご機嫌だ。


 あれ?

 落ち込んだ素振りは芝居だったか? と思ったが遅かった。


「何時?

 決まったら、迎えに来てあげるわ」


「あの……沐生の仕事は」

と訊いてみたのだが、堺は両の腰に手をやり、


「あれは一人で行くでしょ」

とあっさりと言う。


 どんなマネージャーだ、おい、と思った。

 

 




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