霊の居処 III
廃墟ホテルから出ると、真田が目の前のコンビニに居た。
コンビニのアイスコーヒーを飲みながら、手を上げてくるので、上げ返す。
そのまま、お互いの顔を眺めていた。
しばらくして、両方が、何故、こっちに来ない!? と手招きをし、文句を言う。
……実は自分と真田は似ているのかもしれないな、と思った。
結局、横断歩道を渡り、真田がこちらにやって来た。
「女王様め、自分が動け」
と言いながら。
嘘か誠か。
「あっちに来たら、アイスでも買ってやろうかと思ったのに」
と言う。
「またまた」
と言いながら、真田の横を歩いた。
ちょうど道の真正面に夕日が居て、晶生は眩しく目をしばたたいた。
「なあ」
「んー?」
「お前と堺さんってどうなってんだ?」
「……真田。
誰だって知られたくない過去の一つや二つや三つや、八つはあるのよ」
「ねえよ! この年でっ」
お前ありすぎだよっ、と文句を言われる。
「長谷川沐生は知ってんのかよっ」
「さあ?」
でも、堺とのことは、殺人以上の秘密だ。
自分が彼のために人を殺したせいで、苦しんでいるとは知られたくないから。
前を歩く人の影を見つめていると、もうなにも答えないと思ったのか、真田は溜息をひとつつき、違うことを訊いてくる。
「お前、もうやんねえのか?」
「なにを」
「モデルとか役者とか」
「私は芸能界なんてヤクザなものから足を洗ったの。
そうだ。
探偵になろうかしら」
「……よりヤクザな稼業な気がするのは俺だけか?」
そういう仕事もいいではないか。
霊媒探偵とか。
笑ったあとで言う。
「嘘よ。
私は、神主になるの」
「雨乞いしたいからだっけか?」
そうよ、と言うと、
「だったら、坊主でもよくないか?」
と言われる。
「それもそうねえ。
でも、剃髪するの、嫌だから。
ただ、雨乞いの儀式って一回やったら終わりなのよね」
「は?」
「失敗したら、力がなかったってことで。
成功しても、力を使い果たしてってことで。
それで引退なの。
二度は出来ないのよ」
「お前はなにをしたいんだ……」
「じゃあ、やっぱり、霊媒探偵になる。
それで、邪念や霊を打つっていうのはどうかしら?」
と笑うと、何故か、真田は顔をしかめ、
「……俺が打たれる」
と呟いていた。
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