霊の居処 II

 



「遅いな、晶生」


 久しぶりにホテルに行くと、機嫌悪く遠藤が待っていた。


 相変わらず、今にも倒壊しそうなホテルだ。


 古びて汚れた窓から差し込む夕暮れの光の中、彼は定位置に座っている。


「一人が楽しく事件に首を突っ込んでたんだろう」


 いや、特に突っ込みたくもなかったんだが、と思いながら、晶生は階段に足をかける。


「最初は犯人探してたんだけど。

 いつの間にか、被害者の霊を探すことになっちゃって」


「それで、犯人は警察任せか?

 お前らしくもない」


 いやいやいや。

 犯人は警察任せでいいだろう。


 そう思いながら、遠藤の横に腰掛け、訊いた。


「遠藤は此処で死んで、此処にずっと居るのよね」


「そうだな。

 刺されてるからな」


 いや、死んでるんだから、もう動いてもいいと思うんだが。


 誰かに、待て、と言われてでもいるかのように、遠藤は動かない。


 そう自分が訊いたせいか。


 急に思い出したように、遠藤の腹にナイフが刺さり、血が滲み出してきた。


 それを見ながら、晶生は訊く。


「その霊、死体が浮かんでた場所にも、恋人たちのところにも居ないのよ。

 何処に居るんだと思う?」


「殺害現場とかじゃないのか?」


 だから、それが何処だかわからないんだけど、と晶生は眉をひそめた。


「まあ……一番気にかかる場所に居るよな」

という遠藤にとって、此処が一番気にかかる場所なのだろう。


「私が殺した人は、よく私の上に乗ってたり、背中に張り付いてたりするんだけど。

 殺した私が一番気にかかってるってことよね?


 じゃあ、犯人の側って可能性も強いか」

と言うと、遠藤は少し笑い、


「今は見えないが。

 そいつがお前に憑いてるのはお前が気になってるからかもしれないぞ」

と言ってくる。


「だから、殺したからでしょう?」


「違うんじゃないか?


 死んでからも誰かを好きになることはあるかもしれない。

 その生き様を見ていて」


 魂は同じようにそこにあるからな、と言う遠藤は、

「肉体というものがない分、いっそ、美しい愛だろう」

と笑ってみせる。


「そうだ。

 私も無為に此処で過ごすより、お前でも好きになってみようかな」

と言ってくるので、


「私のことなんて、全然好みじゃないくせに」

と言うと、確かに、と笑う。


 大体、好きになろうかという相手に対して、そんな淡々としてないよな、と晶生は思う。


 自分が沐生を前にすると、そうは見えなくとも、動揺しまくっているように。






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