それが目当てじゃありません VII


 


「よかったわね、晶生。

 スイーツのついでに、容疑者にも出会えて」


 そう言う堺に、

「あの、逆ですからね、目的」

と告げる。


 っていうか、あの人、容疑者でもないような、と思っていた。


 彼女はきっと、偶然現れたのではない。


 真奈美もまた、凛が現れるかと思って、あそこを張っていたのだろう。


 凛たちを下ろし、車の中は、今は堺と二人だけだ。

 そして、晶生はまた、助手席に座らされていた。


「ねえ」

「なんですか?」


「なんで、さっき、あんたに祟って出るって言ったとき、それもいいかもなんて言ったのよ」


 晶生は笑って答える。


「いや、堺さんの霊なら、今、私に憑いてる霊を押し退けてくれそうだからですよ」


 ちょうど車が家の前に着いた。


「あら、生きてても祓えるからもよ。

 ……一晩中ついててあげましょうか」


 いつかみたいに、と堺が耳許で囁く。


 あのときは、ただ抱きしめて欲しかっただけだ、誰かに。

 沐生じゃない誰かに、すがりたかっただけ。


 全部夢だよと。

 そう言って欲しかっただけ。


 沐生には知られてはならないから。

 彼のために人を殺した私は、彼の前では、常に平然としていなければならないから。


 沐生の心に負担がかからないように。


「降りる?」

「降りますよ」


「降りないって選択肢もあるわよ」


 ないです、そんなもの、と晶生はドアに手をかけた。

 だが、勝手にそれは、外から開いて、晶生は落ちそうになる。


「遅いぞ」

 晶生を抱きとめた沐生が言った。


 それを見た堺が女に戻って(?)文句を言う。


「えーっ。

 うそっ。

 なんで居るのよ、沐生ーっ」


「此処は俺の家だ。

 居て悪いか?」


 マンションに帰りなさいよーっとわめいていた堺だが、

「まあまあ、堺さん。

 晶生までお世話をかけて、すみませんね。


 いつも二人がお世話になっておりますー」

と沐生の後ろから、母親が出てくると、堺は、急に丁寧な口調になり、


「いえーっ。

 二人ともとっても聞き分けがよくて、時間厳守で、助かってますーっ」

と笑顔で嫌味をぶちかます。


 まあ、母親にはそれが嫌味だとは伝わらないことだろうが。





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