それが目当てじゃありません VI
「あんた、何者か知らないけど、犯人探してんじゃないの?」
私も一応、容疑者なのに、名前も知らないの? と女は自分で言う。
田所真奈美(たどころ まなみ)と女は名乗った。
でも、名前を知るのは嫌だな、とちょっと思っていた。
顔を見るのも、本当は嫌だ。
今まで、凛の恋人の婚約者としか認識していなかったものが、一人の人間として、認識されて。
なんだか疑うのが申し訳ない気がしてしまうからだ。
だが、この女のこのサバサバした雰囲気。
これで、本当に人を殺していたら、いっそ、尊敬する。
自分とは真逆の人間だ、と思っていた。
いや、まあ、婚約者を殺された女にしても、少しおかしいのだが。
凛の存在を知っていて別れられなかったのなら、居なくなったとき、自分を縛っていた鎖が切れたようで、いっそ、せいせいしたのかもしれない。
……沐生が居なくなったら。
せいせいはしないな。
私の人生、すべてを縛る人だけど。
堺さんが居なくなったら……と横目に見る。
なによ、という顔を堺はした。
困った人だけど、やっぱり嫌かも。
「ところで、あんたの顔、何処かで見た気がするんだけど」
そのとき、唐突に真奈美が晶生の顔を見、訊いてきた。
「へえ。
何処かでお会いしましたっけ?」
顔を近づけた真奈美は、じっと晶生を見、
「……あんた、もしかして、あきお?」
と訊いてくる。
「あれ? 私のお知り合い?」
「莫迦ね。
あんた、私を知らないんでしょう? 知り合いなわけないじゃない」
いや、私は、ぼんやりしているし、視力も良くないので、あんまり人の顔を覚えないから。
見知らぬ友人なんかも、たまに現れるんだがな、と思っていると、真奈美が言った。
「私、あんたの出てた雑誌、見てたのよ」
「へえ。
ありがとうございます。
あのブランドの雑誌、一般にはあまり出回ってなかったんですが」
と言うと、
「やだ。
ほんとにあきおなの?」
と真奈美は驚く。
「天使みたいだったのに。
なんで、そんなにやさぐれてんの?」
横で堺がめちゃくちゃ笑っていた。
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